監視される側のJRに「監視体制を考えろ」と提案

まず、3月11日の県地質構造・水資源専門部会で、いったい何があったのかを説明する。

3月11日の県リニア専門部会
筆者撮影
3月11日の県リニア専門部会

当日のテーマは、「田代ダム取水抑制案」のリスク管理などだった。

山梨県側からの先進坑が静岡県境を越え、静岡県側の先進坑につながる工事期間中の約10カ月間に最大500万トンの湧水が山梨県側に流出すると見込まれる。この流出に対して、静岡県は大井川の水資源への影響を懸念して、JR東海に「全量戻し」を求めてきた。

「静岡・山梨県境での工事期間中の全量戻し」について、JR東海は東京電力リニューアブルパワー(RP)の協力を得て、県外流出量と同量を大井川の東電・田代ダムで取水抑制を行ってもらい、大井川の流量を確保すると提案した。

この日は、田代ダム取水抑制案の実際の運用サイクルやオペレーションの詳細や突発湧水など不測の事態への対応などについて、県がJR東海に説明を求めた。

2時間以上にも及ぶ県専門部会委員とJR東海との対話の終わりが見えたころだった。森副知事が発言を求め、「リスク管理を踏まえたモニタリングのうち、監視体制は重要である。監視体制の仕組みをどうするのか考えてほしい」などとJR東海に提案した。

これに対して、JR東海担当者は「JR東海は監視される立場である。静岡県といろいろ相談して考えたい」とさらりと述べた。

つまり、JR東海側は「監視体制の仕組みをつくるのは静岡県である」と言いたかったのだ。

県みずからが「監視体制」を提案する羽目に…

まさしくその通りである。「監視される側がその仕組みをつくる」という森副知事の提案がおかしいことぐらい誰でもわかるだろう。もし、監視体制がそれほど重要であるならば、その仕組みをつくるのが静岡県になるのは当然である。

結局、森副知事の発言は藪蛇となってしまった。

これまでの専門部会は、JR東海の提案や説明に対して、県の選んだ学識者が科学的・工学的な立場で意見を述べて、改善を求めてきた。見方を変えれば、JR東海にさまざまな難癖をつけて、結論を先延ばしにしてきたのだ。

これまで県のほうから何らかの案を出すことなどあり得なかったのだ。

県は重箱の隅をつつくような意見をJR東海に送りつけてきただけに、もし監視体制の仕組みを県が提案するならば、ボロが出てしまわないよう、慎重にならざるを得ないだろう。

監視体制の仕組みとともに、森副知事は「監視体制の評価を行うのは県中央新幹線環境保全連絡会議であり、そこに諮るようにしてほしい」とも提案した。

県の生活環境、地質構造・水資源、生物多様性の3部会を統合するのが同連絡会議であり、個々の専門部会と違い、総勢30人近くの大所帯でもある。少人数の専門部会でなく、そこで「監視体制を評価しろ」というのだ。

メンバーは学識者だけでなく、リニアの早期着工を求める井川地区の代表4人、大井川利水関係協議会代表4人も加わるため、さまざまな意見が出るのは必至だ。