「マスク氏の言動が会社に悪影響を及ぼしている」
テスラ車に憎悪の感情が向くようになった背景に、マスク氏の言動がある。かつて技術革新の旗手として尊敬されていたマスク氏だが、トランプ大統領の就任式での行動や右派寄りの発言が物議を醸している。
米メディア「ザ・ウィーク」では、マスク氏がトランプ大統領の就任式で見せた行動を取り上げている。彼が聴衆に対して腕を斜め上にまっすぐに伸ばし、高々と掲げたポーズが、ナチス式の敬礼に酷似していたことから批判が集まった。この仕草が意図的なものだったかどうかについては議論がある。
テスラの社内にも不満がくすぶる。「ワシントン・ポスト」紙は、テスラ内部の不安を報じた。社員や投資家たちは、マスク氏とトランプ大統領の関係がテスラのビジネスモデルや環境への取り組みを危うくしていると懸念を抱いているという。テスラのある部署で開かれた会議では、社員や幹部らがマスク氏の言動が会社に悪影響を及ぼしていると公言したほどだという。
こうした批判の声に対し、マスク氏は猛反論を展開している。「ビジネス・インサイダー」によれば、マスク氏は3月19日、FOXニュースの番組「ハニティ」に登場し、テスラ車への破壊行為について「左派からのこれほどの憎悪と暴力に驚いた」と心境を語った。彼は「民主党は思いやりの政党だと思っていたのに、彼らは車両を燃やし、ショールームに火炎瓶を投げ込み、銃撃し、テスラを壊している」と怒りをあらわにした。
マスク氏は「テスラは平和を重んじる企業だ。我々は何も悪いことをしていない」と強調。さらに破壊行為の背景に大規模な陰謀が潜んでいる可能性を示唆し、「誰が資金を出し、誰が指示を出しているのか分からない。これは常識では考えられない。こんな事態は初めてだ」と語った。
愛車のエンブレムを交換しトヨタやマツダのふりをする
力説するマスク氏をよそに、「テスラに乗っていること自体、マスク氏を信奉している証しである」との誤解が、アメリカやカナダで広まっている。ヘイトを向けられたテスラのオーナーたちに非はないが、事実上、自衛策を講じざるを得ない状況だ。
多くのテスラ所有者たちは愛車がテスラであることを隠そうと、様々な“擬態”を試みている。米ファスト・カンパニーは、テスラのオーナーたちが「リバッジング」と呼ばれる車のエンブレム交換に取り組んでいると紹介している。
SNS上には、テスラ特有の流れるようなボディラインを持つ車に、トヨタほか、マツダやホンダ、アウディ、リビアンといった別メーカーのバッジが付けられた画像が見られる。また、テスラのロゴを完全に外して無印状態にしている持ち主も少なくない。イーロン・マスク氏の支持者だと周囲から誤解されぬように、念を入れた対策だという。