つまり、相手を立てながら、自分を下げることで断るのです。こういう場合に限らず、人に何かを伝えるときにたいへん役立つキーワード集を図3に示しました。これらの言葉をさりげなく駆使して、図4のように相手の立場を理解しつつ断ることが大事だと思います。肝要なのは、どのような相手とでも「繋がりを完全に遮断する」ような断り方をしてはいけない、ということです。
仕事は常に流動的です。将来どんな事態が起きるかは誰にもわかりません。一度は断った相手に対して、翌週には一転、「ぜひお願いします」と泣きつく可能性だってあるのです。
だから、取り付く島もないような断り方、つまり最初から「やれません」「できません」「無理です」と決めてかかるとか、断る理由として「忙しい」「予算がない」という、相手を一顧だにしないような言葉を使うのは、絶対に慎まなければなりません。そこからは何も生まれず、細い糸のような繋がりも切れてしまうのです。
逆に言うと、そういう「細い糸」を大切にたくさん持ち続けることが成功へのカギだと思います。それこそ、本当の意味で人を大事にするということです。
そのような考えから、私は33歳で経営者になったころ、「仕事は絶対に断りません」と宣言しました。失笑を買うこともありましたが、実際にいろいろな依頼が相次ぎました。
しかし断らないといっても、全部の仕事を引き受けることはできません。そこで「断らずに断る」という技術を磨くことになったのです。
現実に断ってばかりいたら仕事はなくなります。そのとき限りで、次の依頼が来なくなるかもしれません。それを避けるためには、「笑顔で断る」ことができなくてはいけないのです。相手が笑顔になって、「しょうがないな」と思ってくれるような断り方を常に考えていました。