「起業家の成功物語」に踊らされてしまう理由
もうひとつ、知らないと判断を誤りかねないバイアスもお伝えしておきます。ビジネスの世界で多くの人が陥りがちなのが「生存者バイアス」です。人は判断する際に失敗したケースを無視して、成功した事例のみに注目して、誤った結論を導いてしまう現象です。
たとえば、メディアではスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなど起業家の成功物語を盛んに取り上げます。彼らが起業によって世の中を大きく変えたのは事実ですが、起業して彼らのようになれなかった人たちも当然います。むしろ、99.9%はなれません。
ただ、失敗事例にはあまり焦点が当たらないので、成功事例だけに注目して過大評価してしまい、リスクを見落としがちです。企業が新しい商品を開発したり、新規事業に参入したりするときもこの罠によくはまります。
たとえば、あなたの会社が社運を賭けて新商品を開発する際、既存商品を買ってくれた人にアンケート調査をして、高評価を得たとします。しかし、だからといって、「よし、イケる」と判断するのは早計です。これこそ「生存者バイアス」だからです。
確かに、この結果はかつてあなたの会社の商品を買ってくれた人がもう一回買ってくれるかどうかの参考にはなるかもしれませんが、新規顧客の獲得につながるかどうかはわかりません。そもそもこの調査では買おうと思わない人がなぜ買わないかがわかりません。この買った人だけの調査で社運を賭けるのはあまりにも危険です。
「減税」を「税の恵み」と表現した大統領
認知バイアスは私たちの生活のあらゆる場面に潜んでいます。あらゆる決断には認知バイアスが関わっているといっても言い過ぎではありません。知らないことで悲惨な結果を招くことはありますが、知っていれば自分の強みにすることができます。
認知バイアスをうまく使っているのが政治家です。政治家が使うバイアスで有名なのが「フレーミング効果」です。これは情報の発信側が現実を切り取り、認識の枠組みをつくる効果です。受け手はその切り取られた枠組みで評価をせざるを得なくなります。
たとえば、2001年、米国のジョージ・ブッシュ大統領は一般教書演説で減税について語りましたが、彼はスピーチ中、「減税」をそのまま「減税」とは呼ばずに、「税の恵み」と表現しました。それも5回もです。
聞き心地のよい言葉に言い換えることで、「減税して当たり前だろ」と思っていた人たちに対して「ブッシュ大統領にありがたいことをしてもらっている」と印象を変えることができたのです。