――ウォール街の行き過ぎに対する批判が広がり、金融システムに対する監視・規制強化は不可避の状況です。

これから世界は「規制緩和」から「規制強化」へ向かうというよりも、「過剰規制」の時代へ突入します。金融システムを取り巻く環境は様変わりします。

まずは銀行業界。今後はリスク資産を大幅に減らしてスリム化し、コア事業に特化するようになります。商業銀行ならば預貸業務、投資銀行ならば引受業務などへ特化し、高リスク・高リターンのトレーディング業務などは補完的に手掛けるだけになります。結果として、金融機関の多くは公益事業を営む電力会社などと変わらなくなります。次はいわゆる「レバレッジ業界」。多額の借り入れによって大規模な投資を実行するヘッジファンドや買収ファンドです。政府から厳しく監視され、業界全体が縮小するでしょう。

金融システムが規制でがんじがらめになり、金融機関は低リスク・低リターンの公益事業になり下がるわけです。「ウォール街の行き過ぎが危機を招いた」と言われているだけに、社会的にも政治的にも必然的な結末です。その結果、何が起きるでしょうか。まず、金融革新が滞ります。金融機関が大きなリスクを取れなくなるためです。次に、米国を筆頭に世界経済の成長スピードが落ちます。リスクが高い成長分野に資金が回りにくくなるからです。

過剰規制の時代は向こう5年間ほど続くとみています。息子か娘が車を運転していて事故を起こした場合を想像してみてください。親としては「厳しすぎるかもしれない」と思いつつも、ほとぼりがさめるまで車のキーを取り上げるでしょう。同じことが金融システムに対する規制でも起きつつあります。過剰規制の弊害は大きいですが、行き過ぎの代償です。一般納税者は怒り、政治家に圧力をかけており、揺り戻しは避けられません。

※この連載は4回連載の3回目です。

(撮影=安部陽二)