「枠の投げ売り」とは、その企業の健全性や信頼性をチェックする「企業考査」を甘くして、とにかく値段を下げて、買ってくれる企業に売ることだ。そういった企業は全国に知名度がある企業ではないことが多い。一流有名企業のCMが流れなければ、テレビ局のブランド力は落ちる。そんなテレビ局でCMを流したいとは思わないからだ。
もちろん、ブランド力がない企業の株価は下落してゆく。当事者のフジテレビ社員であれば、考えただけでも恐ろしい事態に陥るのである。現に、そうなることを見越していた賢明なフジテレビの早期退職者は、「改めて、早めに見切って脱出した判断が間違っていなかったと思いました」と述べている。また、「2年前の早期退職プログラムに参加しないで残った人たちは大後悔してるのでは?」と心配している。
忘れてはいけない2つの教訓
では、以上に挙げたような危機的な状況下にいるフジテレビに求められる、今後の対応は何なのだろうか。
それを考える際にヒントになる指針がある。過去にCMがACジャパンのものに差し変わった事例を検証し、そのなかから解決の糸口を探るという方法だ。ACジャパンのCMが流れるときは、大きく分けて2つのケースが考えられる。
一つは「災害」、もう一つは「不祥事」が起こったときだ。後者の「不祥事」の場合には2つのパターンがある。「ジャニーズ性加害問題」や「松本人志氏の性加害疑惑」のように「タレント」が起こすものと今回のフジテレビのように「局」が起こすものだ。
後者のテレビ局による不祥事が発端となってCM差し替えにまで発展した事例を挙げる。読者の皆さんの記憶にも残っていると思われる2つだ。
1.東海テレビの「セシウムさん」事件(2011年)
2.日本テレビドラマ「明日、ママがいない」事件(2014年)
1.の通称「セシウムさん」事件は、2011年8月4日(木)に放送した地方ローカル番組「ぴーかんテレビ」において、岩手県産の米「ひとめぼれ」をプレゼントする際に、当選者として「怪しいお米」「汚染されたお米」「セシウムさん」等の不適切な表現が表示された字幕テロップを放送してしまったというものだ(「東海テレビHP」より抜粋)。
2.の「明日、ママがいない」は日本テレビ系列で2014年1月15日から3月12日まで毎週水曜日22:00~23:00の「水曜ドラマ」枠で放送されていた。ドラマのなかの児童養護施設の描かれ方が事実と異なると、ドラマで取り上げられた「赤ちゃんポスト」を運営する慈恵病院が子どもたちや職員への謝罪を求めて、大きな社会問題となった。
いずれもスポンサーが提供を降りたり、自社のCMをやめたりする事態に陥ったため、CMがACジャパンの公共広告に差し替えられた。