ポイントは迅速、真摯、継続

参考にすべきは、上記の両者の対応である。1.の東海テレビは翌日の5日の番組で経緯を説明する検証番組をおこない、外部の上智大学文学部・音好宏教授を迎えて検証委員会を設置し(検証委員会はその後、再生委員会になる)、その後も検証番組を何度もおこなっている。

また、問題を風化させない目的で、問題を起こした8月4日を「放送倫理を考える日」に定めた。そして事件から13年経ったいまもこの過ちを忘れないようにと毎年、放送倫理の向上を目的にした「放送人研修会」を実施している。

私は2024年度の講師を依頼され、去年の12月に講演をおこなってきたが、全社員参加のスタジオには最前列に社長や取締役、各局の長が陣取り、熱心に耳を傾けていた。正直に言って、これだけ事件から時間が経過しているにもかかわらず、真摯で真剣な姿勢であることに驚いた。

2.の日本テレビは放送当初から苦情を申し立てていた慈恵病院や全国児童養護施設協議会(全養協)、全国里親会などと社長や制作局長自らが話し合いを重ね、番組の意図と思いを丁寧に伝える作業を地道におこなった。これら2つの事例から学ぶことは何か。

それは「迅速な対応」と「真摯な姿勢」、そして「継続した取り組み」である。「迅速な対応」においては、今回のフジテレビはどうか。1年半前に事件を知りながら、それを放置してきた。週刊誌が騒ぎ出さなければ、そのまま「知らぬ存ぜぬ」を貫き通すつもりだったのか。

記者会見のまずさをこれだけさまざまなメディアや記事で叩かれながらも、すでに4日経っても、またの「ダンマリ」だ。そこからは「真摯な姿勢」はまったく感じられない。

株式を買い進める実業家・堀江貴文氏

「継続した取り組み」は、犯してしまった過ちを忘れないという教訓だ。人間は忘れてしまう生きものである。都合が悪いことほど忘れたがる。しかし、間違いを忘れない、問題を風化させないという心がけが大事なのだ。この点は、東海テレビに大いに学ばなければならない。

以上にフジテレビが今後求められる対応についての提言をおこなったが、それが適えられるかどうかがわからないいま、「最悪のシナリオ」もあり得ることを指摘しておきたい。

すでにネットニュースなどで報じられているが、実業家の堀江貴文氏がフジテレビの株式を買い進めている。20年前の2005年、当時ライブドアの社長を務めていた堀江氏はニッポン放送の株式35%を買収してフジテレビにM&Aを仕かけたが、フジグループの激しい抵抗にあって最終的に経営参加はできなかった。そのときの「恨み」をネットなどで語っているのを読んだ方も多いだろう。

ニッポン放送経営権を巡り和解し、記者会見でフジサンケイグループ側と握手するライブドア社長の堀江貴文氏(左から2人目)=2005年4月、東京都内のホテル
写真提供=共同通信社
ニッポン放送経営権を巡り和解し、記者会見でフジサンケイグループ側と握手するライブドア社長の堀江貴文氏(左から2人目)=2005年4月、東京都内のホテル

同じ年の2005年、楽天の三木谷浩史氏がTBS株を15.46%取得し、直後に経営統合申し入れで始まったM&Aは5年以上にわたる泥仕合が続いた挙句、決裂した。遡ること1996年には、ソフトバンクの孫正義氏が「世界のメディア王」と称されるルパート・マードック氏率いるニューズ・コーポレーションとタッグを組んで、旺文社からテレビ朝日の株式21.4%を買い取り事実上の筆頭株主となった。しかし、この買収は大反発を受けて失敗に終わった。

このようにテレビ局の株式取得による買収はことごとく失敗している。