1次情報ではなく、受け手側に「価値」を付与しつつ情報配信できる教祖のごとき存在が、今、注目の「キュレーター」だ。各分野の第一線を走る識者たちは、普段、誰の情報を頼りにしているのか。一挙公開する。
なぜ、「評論家」はキュレーターになれないのか
本好きの仲間を集めて「本のキュレーター勉強会」を主宰しています。雑誌や新聞で本の紹介、書評を行っている人はたくさんいますが、私は、その人がキュレーターか否かを見極めるポイントを、紹介する本を批判的に扱っているかどうかに置いています。要するにケチをつけていないのがキュレーターなのです。
本を読まない人とは付き合いたくないと思うくらい本好きの私ですが、読むのはノンフィクションだけ。が、この分野におけるキュレーターは日本にほとんどいない。そんな意味でも、自分自身でキュレーターを養成できる会を立ち上げることにしたのです。
そもそもキュレーターの役割とは、本来、たくさんの商品を検分したうえで、「これこそ私のお勧め」というものだけを紹介することなのです。話題の本や知り合いに依頼された本も含めて幅広く取り上げ、あれこれ論じ、ケチをつけているものもあるというのは、単なる評論家にすぎない。
もう1点、本のキュレーターであるための条件として、紙媒体だけでなく、「サイトを持っている」ことも加えておく必要があるでしょう。雑誌や新聞を読んでいて、ついでに書評欄も目にしたという形ではなく、「この人の勧めている本は何なのか」と、目的を持って多数の人がアクセスできる場を提供するのがキュレーターだからです。
以上の条件から、私が本のキュレーターと位置付けているのは、日本を代表する編集者・著述家である松岡正剛氏です。ノンフィクションにおいて、日本で唯一の正統派キュレーターと言ってもよい存在でしょう。「千夜千冊」という自身のサイトにおいて、1冊の本を勧めるなかで何冊もの関連本にも触れるなど、本を媒介にして知の体系化というべきことさえ行っています。選書はやや上級者向けですが、この人が日本にいて日本人は本当に幸せだと感じるほどすごい。
同じ理由で、サイエンスライターの森山和道氏も、科学本専門のキュレーターといえるでしょう。
11年7月15日に、日本で最大級の本のキュレーションサイト「HONZ」を立ち上げました。前述の勉強会から派生したサイトで、20人程度のメンバーがお勧め本だけを取り上げるものです。メンバーの1人、東えりか氏はプロの書評家として、文芸を含め、ジャンルを問わず活躍していますが、本来は大のノンフィクション好き。現在のサイトに加え、HONZでもノンフィクションを取り上げてもらいます。
まだ本当のキュレーターといえる人は限られていますが、今後、少しずつ出てくるはず。どんな分野においても、本物かどうかは、最初に述べた原則、「本当にお勧めのものだけを紹介しているか」につきるのです。