大企業のエリート社員にあわせた「民間準拠」
国税庁の年収統計には非正社員が含まれている。だから、非正社員の比率の高まりとともに、平均年収は1996年の411万8000円をピークに直近では5.3%減っている。
ところが、国家公務員の月給は、この間の人事院勧告の給与改定率を積み上げると+0.27%で、まったく減っていないのだ。
「国家公務員の給与」によると、本省課長のモデル年収は1260万円となっている(50歳)。一方、厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2022年)」によると、民間企業の課長の平均年収は784万円、部長でも913万円だ。本省の課長を務める官僚は、民間企業の部長より年収が38%も高くなっているのだ。
国家公務員の給与を決める際には、事業所規模50人以上の事業所の正社員だけを選んで給与水準を調査し、そこに給与を合わせる仕組みになっている。
事業所というのは、支社とか工場とか営業所のような組織だ。その事業所の規模が50人以上というのは、企業としては、相当大きな企業だということになる。つまり、公務員の給与水準は、大企業の正社員と同じになっているのだ。
大企業の場合は、中高年になると、選抜競争に敗れた者は、次々に子会社などに出されるかリストラされてしまう。つまり、エリート公務員の給与は、実質的に民間の出世競争に勝ち残ったエリート中のエリートの水準に合わせられているというわけなのだ。
自動的に給料が20%増える仕組み
官僚が自分の給料を上げようとする取り組みは「地域手当」でも行なわれた。
人事院の給与構造改革によって2005年に地域手当が新設・導入され、物価や賃金の高い大都市で勤務する国家公務員に支給されることになったのだ。
地域手当は、大都市勤務者のみに支払われ、都市規模によって支給率が異なっている。7段階に分かれている支給率は、もっとも低い7級地の札幌市などは3%だが、東京23区のみが適用対象とされている1級地は20%となっている。つまり、東京23区の勤務者は、自動的に20%給料が増えることになる。それまでも「調整手当」という名前で、同様の手当は存在したが、調整手当は最大でも12%だった。
言わずもがなだが、霞が関に勤務する官僚は東京23区に勤務しているから、自動的に給料が20%増える。
また、彼らも地方の出先機関に一時的に転勤することがあるのだが、地域手当のつかない地域に転勤しても、3年間は地域手当が支給され続けることになっている。
一方、全体の4分の3を占める大都市以外に勤務する公務員には、地域手当は一切支給されていない。民間企業でも、地域手当は一般的ではない。2020年に厚生労働省が実施した調査によると、地域手当などの手当の支給割合は12.2%にすぎなかった。
公務員の給与は民間準拠が原則であるはずなのに、この手当については原則を無視する形で、中央省庁勤務の官僚だけが利益を得られる制度が導入されたのだ。