思い出した「亡き夫との約束」
それから4、5日ほどでしょうか、雨戸を締めきったまま、心中しようとした気持ちを引きずって過ごしていました。時間も止まってしまったような空白でした。いろいろな思いが浮かんでは消えて……。
そんな中で、鮮明に思い出したことがありました。「子どもたちを頼む」、それは夫が出征前に残していった言葉です。「お金は全部使ってしまってかまわないから、とにかく子どもたちをよろしく頼む。子どもたちのことは、どんなことがあっても守ってくれ!」。
夫の、命をかけての願いを、わたしは忘れかけていたんです。「3人でお父ちゃんのところへ行こう」だなんて、とんでもないことでした。なんて馬鹿な考えだったんでしょうか。夫との約束を破るところでした。
やっと正気づいて、こんな弱虫ではダメだ、これまでの、実家、姉・兄・妹に寄りかかっている気持ちでいてはいけない。ここからもう一度、気持ちを入れ替え、わたし自身を立て直さなくては夫に申し訳が立たない。
「子どもたちを育てるために、どんなことがあってもくじけずにがんばる」。そう強く強く、心に決めました。そこからは弱い気持ちを断ちきって、「こうしてはいられない」と、わたしはその日すぐに、雨戸を全部開け放ち、店を再開させたんです。
「わたしが生まれ変わった記念日」に
学校から帰ってきた息子は、店に立つわたしを見て、全身の力が抜けてしまったようで、その場にへたり込んで泣いてしまいました。「お母ちゃんが、いつものお母ちゃんに戻ってる!」と言ってね。心中事件のあとは、授業中でも「もしかしたら、今頃、みっちゃんと2人で死んじゃってるんじゃないか……」と、気が気でなかったそうです。心底ほっとしたんでしょうね。本当に本当に、本当に申し訳ないことをしました。
「娘と息子と、一日も早くここを出よう。そして3人で伸び伸び楽しく暮らそう。そうなるようにがんばろう」。そう決意し、この日は、わたしが生まれ変わった記念日になったんです。
つくづく死なないで良かったと思います。子どもたちの命も奪って犯罪者になるところでした。ものごと、思い詰めていいことは1つもありませんね。それからは、自分を冷静に見る、もうひとりの自分を大切にするようになりました。
そして、下を向いて足元を見つめてばかりいないで、目線を上に上げていなければと気づきました。そうしないとね、心に光が入ってこないんですよ。