※本稿は、佐藤舞『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』(KADOKAWA)と著者のYouTube番組を基に再編集したものです。
現代人の「時間がない」は錯覚
現代人の多くの方が「時間がない」という感覚にとらわれていると思いますが、いくつかの先行研究においては、それらは単なる「錯覚」かもしれないということが示されています。
一例として、OECDのデータによると、経済先進国では、労働時間が減少していて、自由に使える時間が増えているという統計が出ています。
2023年は、日本は労働時間の国際ランキングで31位。最も労働時間が長いのはコロンビアで2297時間。日本はOECD加盟国の平均1742時間を下回っています。日本の平均労働時間の推移をみると、1970年代は年間2200時間程度でしたが、法改正や働き方の変化等を背景に、2016年には1713時間まで減少しています。
昔に比べて十分な時間はあるはず。なのに、「時間がない……」「忙しい……」と感じている。もちろん状況に応じてさまざまなケースがあるので、一概にはいえません。でも、「ああ、わかる。気持ちだけが忙しくなることってあるよね」と感じたならば、頭の中で考えていることと現実のズレ、つまり「錯覚」が起こっているかもしれません。
「時間がない」と思わせる3つの原因
さて、ではその錯覚を起こさせている原因は何でしょうか。私は大きく3つあると考えます。
原因① 通知による集中の阻害
労働時間が減っているにもかかわらず「時間がない」と感じる理由の一つとして、「自由時間を有効に活用できていないこと」が挙げられます。
SNSやオンライン上のメディアなど、テクノロジーがもたらした新しい選択肢が、自由時間を無意識的に消費する機会を増やしており、時間不足の感覚を生み出しています。
常にスマホでメールなどに接続している現代人は、仕事やプライベートの境界が曖昧になり、「時間に追われている」という感覚が強まる傾向にあります。
原因② 決定疲れ
また、現代人の日常生活には選択肢が多く、あらゆる物事の決定に時間がかかることで、時間不足の感覚がさらに強化されてしまっています。例えば、SNS上の無限スクロールや、消費活動における様々な選択肢が「決定疲れ」を生み出し、時間不足の錯覚につながるということが、先行研究で明らかにされています。
原因③ 自己効力感の摩耗
そして、心理的な要因もあります。
「時間が足りない」と感じる「時間貧困感」は、実際の時間の長さではなく、「自分ならできる」という自己効力感や達成感といった心のあり方に大きく影響されています。
やるべきことが整理できず、どんどん溜まって「処理しきれないかも」と思うと、たとえ時間が十分にあっても「時間がない」「忙しい」と感じてしまうことがあります。テトリスなどの「落ちものゲーム」でブロックが溜まってくるにつれて、脳がストレスを感じて冷静な判断ができなくなる現象と似ているといえます。