「マス向け」はターゲットが広いがライバルも多い
消費者の多様化が進み、その変化も加速している現代では、好みや流行はどんどん移り変わっていく。「人気」や「話題」の寿命がますます短命になり、一時の注目に合わせてターゲットを絞り込むリスクが高まっている。この意味においても、変化の波に左右されず、マスをターゲットにすることにはメリットが見込める。しかし、マス向けのビジネスにはデメリットも存在する。
デメリットの1つは、老若男女の誰もが利用できるようなマス向けには、ターゲットが広い分、ライバルが増えることだ。スパコロの調査によれば、ユーザーが餃子の王将を利用しようとしたときに比較検討するのは中華料理店だけでなく、ハンバーガーチェーンや丼ぶりチェーンなども想起されている(※1)。類似する価格帯の中で、例えば、若者に支持されるファストフード、男性が好むガッツリした丼ぶりやラーメン、女性に人気のヘルシーフード、シニア層ならば持ち帰り弁当や総菜など、ターゲットの幅の広さに伴い、多様なライバルが立ちはだかることになる。
※1 スパコロプレスリリース「餃子の王将は実際どのように利用されているのか」を参照。
餃子の王将の「マス」は、地域ごとの「スモールマス」
マス向けのもう1つのデメリットは、幅広いターゲットを想定する中で、ターゲット像がぼやけてしまいやすいことだ。解像度の低い、ぼんやりとした「みんな」をターゲットにしようとしても、なかなか上手くいかない。「誰でも利用しやすい」という強みは、「誰にとっても中途半端」で、「誰からも選ばれない」という弱みと表裏一体になるからである。
では、なぜマス向けである餃子の王将は、多種多様なライバルに囲まれる中で、ユーザーから選ばれ続けることに成功しているのか。その理由は、餃子の王将の「マス」は、ただのマスではなく、地域ごとの「スモールマス」だからである。
スモールマスとは、2015年から花王のマーケティング戦略で重視されている考えで、「既存のマスより小さいながらも一定のボリュームを持つ消費者のグループに、それぞれに合った商品を提供する」と説明されている(※2)。例えば、花王の洗濯洗剤「アタックZERO」は、従来のマス戦略ではなく、より小グループのスモールマスをターゲットに開発された商品になっている。
※2 Think with Google「スモールマスを最大化する統合マーケティング――花王の考えるデジタル広告投資に大切なこと」を参照。