スカートの中に「黒い物」が向けられていた

1、背後からスカート内を盗撮

スカート内の盗撮は基本中の基本といえる。たとえばこんなケース――。

被告人は30代後半。大学を卒業後、職を転々。婚姻歴なく単身。受け答えは頭が良さそうだ。ただ、気力というものが感じられない。盗撮の前科が2犯あった。5年前に罰金30万円。2年前に懲役6月、執行猶予3年。その猶予中に、駅の上りエスカレーターで、被害女性(34歳)の後方からスカート内へデジタルカメラを差し入れ、逮捕された。

若い女性検察官が、書証(被告人を有罪とするため用意してきた証拠書類)を読み上げた。甲4号証は被害女性の調書だ。メモしきれなかった部分を「……」でつなぐ。

「エスカレーター……右足のふくらはぎに固い物が……知らない男がスカートの中へ黒い物を向けていた……犯人を追いかけ……撮りましたよね……撮ってないです、やってません……駅員に犯人を引き渡した……SDカード……写真……私のスカートの裏地……とても恥ずかしい思いをした……許せません」

駅のエスカレーター
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです

「ネットの盗撮の動画とか見て興味を持った」

スカートの裏地で逮捕。冤罪? いや、東京都の迷惑防止条例は、何を撮影してもしなくても「(通常は衣服に隠されている下着等を)撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」も処罰の対象としているのだ。

弁護人 「(何度も捕まり)それでもやってしまったのは、なぜですか」
被告人 「正直……よく、自分でも分かりません」
弁護人 「刑務所へ行きたいのですか?」
被告人 「(感情を込めず淡々と)積極的に行きたいわけじゃないですが、べつに、行ってもいいかなぁとは思ってました……社会で生活しているのが、あまり楽しくない、それなら、刑務所もあまり変わらないかなぁ……」
検察官 「盗撮を始めたきっかけは」
被告人 「たぶん、ネットの盗撮の動画とか見て、興味を持ったと思います」
検察官 「相手の人(盗撮される女性)がどう思うか、考えなかったんですか」
被告人 「(暗く淡々と)視野が狭くなってるときは、そこまで考えられない……」

求刑は懲役1年。2週間後、判決が言い渡された。

裁判官 「主文。被告人を懲役8月に処する。未決勾留日数中40日をその刑に算入する」

前刑(懲役6月)の執行猶予は取り消され、併せて服役することになる。盗撮は手軽にできることもあってか、繰り返す者が多い。同種前科9犯、刑務所を出て2週間でまたやった中年男性もいた。