ワコールが苦境に立たされている。2023年3月期、2024年3月期と創業以来初の2期連続赤字になり、2024年11月には3度目の希望退職を募集している。何が起きているのか。金融アナリストの高橋克英さんは「3つの理由がある。ライフスタイルの変化、EC化の遅れ、ブランドの乱立だ」という――。
ワコール本社=2024年5月16日、京都府
写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
ワコール本社=2024年5月16日、京都府

創業以来最大の危機

創業者の塚本幸一氏は、第二次世界大戦のインパール作戦を戦い抜き、戦後まもない1946年に京都でワコールを創業した。女性の社会進出とともに成長し、高い品質とブランド力により、ワコールを女性用インナーウェア(ファンデーション、ランジェリー、ナイトウェア及びリトルインナー)の国内トップ企業に押し上げた立身出世の人物だ。

その京都の名門企業「ワコール」が、創業以来初の2期連続赤字と業績不振に陥っている。3度目の希望退職募集をはじめ、経営再建に力を入れている。

持ち株会社ワコールホールディングス(HD)は2023年3月期、中核事業会社のワコールの業績不振などにより、1946年の創業以来77年で初となる最終損益17億円の赤字に転落した。2022年11月には希望退職募集を行うと発表し、155人が応募している。創業来最大の危機に際し、経営責任をとって、ワコールHDとワコールの社長は各々交代となり、現在、ワコールHDは矢島昌明社長、ワコールは川西啓介社長がそれぞれ陣頭指揮を執っている。

翌期の2024年3月期も、連結売上収益が1872億円と前年比0.7%減少し、米国事業での減損処理もあり、最終損益は86億円の赤字となった。

2023年11月には、店舗の閉鎖や不採算事業からの撤退を柱とした中期経営計画(リバイズ)を発表した。2024年2月には2度目の希望退職募集を行い、215人が応募している。

3度目の希望退職募集に資産売却も進める

ワコールHDでは、中期経営計画(リバイズ)において「アセットライト化の推進」として、①在庫の圧縮②政策保有株式の縮減③保有不動産の整理を掲げ、推し進めている。

その一環として、2024年11月から、新潟と熊本の工場閉鎖に伴い、約230人の希望退職募集を開始している。国内で3度目の希望退職募集だ。

また、今期(2025年3月期)は、保有する浅草橋ビルの売却益14億と旧福岡事業所跡地の売却益77億円の計91億円の売却益を計上している。

保有不動産だけでなく、政策保有株の売却も進めている。24年3月期にはKDDIなどの上場株を171億円で売却した。2025年3月期は200億円分を売却する予定だ。

こうしたなりふり構わぬ虎の子の保有資産売却で、2026年3月期までの3年間で約800億円の現金を確保するという。

この結果、2025年3月期の連結最終損益は45億円の黒字予想となっている。このまま予定通り着地すれば、3期連続赤字は免れそうだ。しかし、それは本業である女性用インナーウェア事業が回復したからではなく、保有不動産や保有株式の売却による利益の計上によるものに過ぎない。