なぜ東大生の官僚離れが起きているのか

【じゅそうけん】「東大文一」から「霞が関」というルートもかつては鉄板でした。「東大至上主義」が官庁の中にあったともいわれます。しかし近年は「東大生の官僚離れ」がしきりに言われて、時折ニュースでも取り上げられていますよね。

【宇佐美】かつて東大の学生が官庁を目指したのは、官僚をやっている先輩が多かったからに過ぎないと思います。先輩と後輩の関係を通じて、東大生たちは官庁がどういう職場かを聞けたから、官庁への心理的距離感も近かった。

そして「官僚離れ」のような現象は、昔からしばしばメディアで言われてきましたが、最近取り沙汰されている「東大生の官僚離れ」は、かつてのそれとは質的な違いがあると思います。おそらくの展望ですが、最近の「官僚離れ」では本当に人材確保が困難になってきているし、今後さらに厳しくなっていく。

【じゅそうけん】宇佐美さんは何が「東大生の官僚離れ」の要因だと思われますか?

【宇佐美】根本にある構造的な要因からいうと「東大文一の定員削減」が大きかったと思う。削減自体は大分前になされたことです。だけど200人近くが削減されている。これが大きく響いているのではないでしょうか。

【じゅそうけん】東大文一の前期試験の募集人員は「590名(1996年)」だったのが、緩やかに削減されて、2008年から現在までは「401名」となっています。

政治主導が進んだ弊害

【西岡】楽観的な捉え方をする向きもあると思うんです。官庁に人気がなくなっても、それでも官僚を志望する東大生には「気骨のある人」が多いのでは、と。昔もそうだったかもしれませんが、さらに少数精鋭として「志」があるちゃんとした人間が東大から官僚になっているとすれば、それは良いことなのだという考え方ですよね。どう思われますか?

【宇佐美】ところが、政治主導がかなり進んだ結果、極端な言い方をすれば「官僚は政治家の言うことならば黒も白と言わなきゃいけない」みたいな空気に変わりつつある。無論、政治家や官邸と仲が良い官僚のもとには、面白い仕事が回ってくるし、それなりに権力も得られる。

けれど、そこから外れてしまった官僚には、政治家に近い官僚に従わされる仕事ばかりが回ってくる。そこにあまりにも大きな差が出てしまった。組織は「志がある人」ばかりでなく、「志がない人」や「斜に構えた奴」がいるというのが大事なのだと思うのですが、「志がある人」にとっても「斜に構えた奴」にとっても居づらい職場になってきている。

【じゅそうけん】そして、官僚養成学校としての東大文一だからこそ、それを古くからひっそりと支えてきた「先輩と後輩の関係」を通じて「綻び」が波及していくというわけですね。