※本稿は、松永和紀『食品の「これ、買うべき?」がわかる本』(大和書房)の一部を再編集したものです。
マルチビタミンの健康効果ははっきりしない
マルチビタミンとは、多種類のビタミン類を組み合わせて、錠剤やカプセル型のサプリメントにしたものです。米国では、成人の3分の1はマルチビタミンを摂っているとされています。ところが、意外なことに健康効果ははっきりしません。
米国で約40万人を対象に20年間以上にわたってフォローした調査では、摂取していない人たちと比較して死亡率、寿命に違いがありませんでした。
ビタミンといっても多数あり、それぞれ体の中での役割が異なります。また、通常の食生活によるビタミン類の摂取量も人により大きく異なります。
特定のビタミンが不足している人がマルチビタミンを摂れば、不足分の補給にはなりますが、不足していないほかのビタミンについては過剰摂取になるかもしれません。また、食事で十分に摂っている人も、マルチビタミンで過剰摂取に陥るリスクがあります。
マルチビタミンによく含まれる水溶性のビタミンCやビタミンB群は、多くとっても尿に排出されるので、過剰摂取の害は出にくいのです。ビタミン剤を摂った後、尿が黄色になりますが、あれは、必要としなかったビタミン類が排出されるため。出ていってくれれば体への害はありません。
多めに摂っておけば大丈夫ではない
一方、脂溶性のビタミン類は体に蓄積しやすく、過剰摂取の影響が起こりやすくなっています。ビタミンAは摂り過ぎによる肝障害や骨密度の低下、骨折などが報告されていますが、レバーに多く含まれるため、レバー好きの人は要注意です。
とくに鶏レバーや豚レバーはビタミンAが非常に多く、約20g食べただけで日本人の食事摂取基準2025年版の耐容上限量を超えてしまいます。
ちなみに、野菜に含まれる栄養成分のβ-カロテンは、体内でビタミンAが足りなければビタミンAに変わる栄養素。抗酸化作用によるがん予防効果も期待されて、米国でサプリメントを長期間摂取してもらう大規模試験が行われました。ところが、喫煙者では健康効果どころか、肺がんリスクが上昇することが報告され、急遽試験が中止されました。
また、ビタミンDの長期の過剰摂取も、カルシウムの過剰吸収や腎障害につながりやすいとされています。
こうしたことから、多くの国の機関や医療機関は、マルチビタミンを推奨していません。バランスのよい食生活が基本です。血液検査や症状などによりビタミン類の摂取不足が確認された場合には、補給目的で単一のビタミン剤を一定期間処方する、というのが一般的な対応。ビタミン類は、「多めに摂っておけば保険になる」という類いのものではないのです。