起業のルーツは『野ブタ。をプロデュース』

【澤円】まずは具体的なインプットが重要になるわけですね。それを基に「やりたいこと」を探っていくときの、片石さんの「抽象化」のプロセスが気になります。

【片石貴展】「好き」という具体的なインプットがあれば、抽象化はそこまで難しくありません。わたしの場合、yutoriを創業したルーツは、実は小学校6年生のときに観た『野ブタ。をプロデュース』というドラマまで辿ることができます。

クラスの人気者の生徒が、いじめられている転校生を学校一の人気者にプロデュースしていくという筋書きのドラマですが、当時は小学生だったので、それを面白いと思う理由なんてありませんでした……(苦笑)。ただ、そのドラマに不思議と惹かれ、とても好きになったのです。

その後、思春期に「好きなもの」や「気になるもの」をインプットしていくわけですが、特にストリートファッションに強く惹かれました。このときも、目の前のものを夢中に吸収していただけです。ですが、「抽象化」という観点で見れば、ファッションは着る人をプロデュースするものと捉えることもできますよね。

才能がないからこその「弱者の生存戦略」

また、わたしは当時、世の中の優れたクリエイティビティに触れるなかで、自分に突出した才能がないことを自覚するようにもなっていました。そこで、誰かを巻き込んで自分の立場をつくるという、いわば「弱者の生存戦略」のようなものを本能的に選び取ろうとしていたのかもしれません。こうした体験もまた、プロデュースという視点につながります。

いずれにせよ、『野ブタ。をプロデュース』にはじまる具体的なインプットを「抽象化」することで、「TURN STRANGER TO STRONGER(ハグレモノをツワモノに)」というyutoriの企業理念にまでつながっていきました。まさに、自分の具体的な「好き」から本質を取り出すプロセスを経て、創業の原点になったということです。

いまでもわたしは、yutoriで働く若者たちがクリエイティブなものと接触し、猛烈な勢いで成長していく姿を見るのが大好きです。個人個人の働くスタイルひとつとっても、入社したときとまったく変わっていくわけで、そうした変遷にとても惹かれるのです。