「目上の男性から認められた」と受け取ってしまう子もいる
年長の男性から子どもへの加害行為は、性的接触という目的を隠し、親切を装って近づいたり、親しい関係性を築いたりする“グルーミング”を伴います。教員、スポーツの指導者、やさしい親戚のおじさん、ゲームが上手な年上のお兄さんといった人物が、子どもからの信頼や好意、あこがれにつけ込んで加害行為に及びます。これは女児を対象としたときもよく使われる手口ですが、男児への性加害では特に多いといわれています。
なかには、自分は目上の男性から認められたのだとポジティブな体験として受け取り、加害されていることにすら気づかない子どももいます。それでも、これはトラウマ体験として子どもに残ります。生涯を通じてグルーミングというマインドコントロールの影響下にいられることはなく、どこかの時点で「幼いころのあれは、男性からの性被害だったのだ」と気づきます。
女の子は小さいうちから、「知らない人に気をつけて」と教えられ、保護者も常に目を光らせています。もっとも、「知らない人」への警戒だけでは性暴力予防としては不十分なのですが、それでも周りの大人が被害を受けづらい状況をつくり出しておけば、加害者はうかつに近づけません。それに比べて男児に注意と警戒を促す機会は、女児と比べると大幅に少ないといわざるをえません。
保護者のみなさんとお話ししていても、「うちは男の子だから心配ない」「女の子のおうちはたいへんね」という言葉をよく聞きます。その考えはいますぐに捨てましょう。男児を対象とした性加害者のなかには、「女の子はガードが固いから、ガードがゆるい男の子を狙う」といって憚らない人がいるのも事実です。
男子は女子以上に性被害の経験を打ち明けない
“同性からの加害”がほとんどという実態も、男児の性被害を見えにくくしている原因のひとつです。海外の研究では、男の子は女の子に輪をかけて、性被害の経験をみずから打ち明けることが少ないとわかっています(*2)。
日本では、内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査報告書(令和2年度調査)」に「無理やりに性交等をされた被害の相談経験」という項目があり、それによると「相談しなかった」と答えたのは、女性のうち約6割、男性のうち約7割でした(*3)。
*2:「Male sexual abuse: A review of effects, abuse characteristics, and links with later psychological functioning.」Romano E, et al. Aggress Violent Beh. 2001;6(1):55–78.
*3:内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査(令和2年度調査)」報告書〈概要版〉