歯科医にとって金銭的なメリットがまったくない
いま、インターネットで検索すると、ラバーダム治療を行っている日本の歯医者もそれなりに出てきます。とはいえ、インターネットに上げていない大半の歯医者は、ラバーダムを使用していないのが日本の現実なのです。
先進国では常識となっているラバーダム治療が、なぜ日本では浸透しないのか。一つは歯医者にとって、金銭的メリットがないからです。
具体的にはラバーダム治療は、保険の点数がゼロなのです。患部以外を覆ったりするのですから、ラバーダム治療には手間がかかります。もちろん材料費もかかります。それなのにラバーダム治療をしたところで、歯医者には1円も入ってこないのです。
さらにいえば、日本ではラバーダム治療に限らず、歯の根管治療に対する保険の点数が極めて低いのです。これは見方を変えると、日本では国民皆保険制度によって歯の根管治療にかかる費用が、極めて安価に抑えられているといえます。
たとえば先ほどのアンケートでラバーダムの使用率が85パーセントだったアメリカには、日本のような保険制度がありません。それもあって根管治療に20万円前後かかるのは、当たり前とされます。一方で、日本は患者さんの負担が数千円ですむことが普通です。確かに患者さんにとってありがたい制度ですが、歯医者にとっては厳しい話です。
根管治療の点数が低い限り、歯医者は根管治療に手間暇をかけられません。点数ゼロのラバーダム治療なら、なおさらです。
患者のことだけを考えていたら、歯医者は潰れてしまう
いまの保険制度では、治療によっては赤字になることさえあります。
たとえば1本のむし歯治療に30分かけた場合、歯医者やスタッフの人件費、機材代、光熱費などを考えると約1000円のマイナスになります。こんな治療ばかりやっていたのでは、歯科医院は潰れてしまいます。
そこで歯医者としては、潰れずにすむ治療を考えることにもなります。このような環境では、患者さんの予後を考えてラバーダムを使おうという発想が生まれにくいのも、ある意味、仕方ないかもしれません。
実際のところ、日本の歯科大学ではラバーダム治療について教えています。ただし教える時間はごくわずかで、まったく重要視されていません。これもまたラバーダム治療が日本で普及しない理由の一つです。
ちなみに「本当に患者さんのことだけを考えてむし歯治療をしていたら、歯科医院は潰れてしまう」と言うと、驚く人がいるかもしれません。「歯医者は儲かる職業」というイメージを持つ人もいます。確かに1980年代後半頃の歯医者には、儲かっている人も多くいました。これは当時の日本がバブルに沸き、自由診療を選ぶ人が多かったからです。