つかの間の好景気の恩恵も受けられず
そのうちに2006年、07年あたりの時期には、リーマンショック(*)前のつかの間の好景気を迎えますが、その恩恵は一世代下の新卒者にわたり、わずかな転職のチャンスをつかんだ人間以外は社会から忘れられた存在となりました。
*米大手証券会社・投資銀行リーマンブラザーズの経営破綻を発端として、2008年9月に起こった世界的金融危機・不況。
新卒で正社員として採用されたか非正規だったかなど、社会に出た年のわずか1年、2年の差で残酷なほど就職活動の苦労の度合いが異なることがこの世代の特徴です。
そしてリーマンショック、民主党政権。超円高で中間層以上は海外の品物が安く買え、海外旅行も身近になりましたが、企業は生産拠点を次々に海外へ移転させ、国内の就職先が消えていきました。
「派遣切り(*)」が流行語になるような状況に最も翻弄されたのが、他でもない就職氷河期世代の非正規労働者たちだったわけです。
*経営状態の悪化等を理由として、企業側が派遣契約を打ち切り、派遣社員が失業すること。
「ネトウヨ」が安倍政権に熱狂した理由
社会に出てすぐ、そして2010年代初頭と2度にわたって経済失政の波をもろに被ったこの世代が、現状を打破する経済政策、アベノミクス(*)を掲げた第二次安倍政権に期待したのは自明の理でした。
*2012年12月に発足した第二次安倍晋三内閣による経済政策の総称。積極的金融緩和や財政支出でデフレーションを払拭し、規制緩和などで産業を育てることを目指した。
当時、普及しだしたTwitter(現X)などを中心に「ネトウヨ(ネット右翼)」という言葉を多く目にするようになり、若者の右傾化が問題だと言われましたが、この世代の安倍政権支持の根幹はイデオロギー的な傾倒よりも経済政策にあったのではないかと思います。
これを、第二次安倍政権の首相官邸で要職を占めていた元高官に言うと非常に驚かれ、そうだったのか! という顔をされました。この元高官も1980年代に霞が関に入ったキャリア官僚。マクロ経済政策がここまで雇用や賃金といった国民生活に影響するということを、90年代以前にすでに社会人になっていた方々は実感としてご存知ないのかと思いました。
もちろん、民主党政権にも「デフレ脱却議連」などマクロ経済政策で経済を回復、成長させ、雇用を確保する政策を志向する人たちもいました。しかし、政権中枢、特に菅(直人)、野田両政権はむしろ真逆の消費税増税に走り出し、氷河期世代の失望を買いました。