生存権を脅かす違法な差し押さえの数々

仲道氏がこれまで関わった中から、給与が銀行口座に振り込まれたその日に全額市に差し押さえられた例や、振り込まれた児童扶養手当を差し押さえられたシングルマザーの事例も聞いた。

それらは違法行為ではないのだろうか。

「税の納期限経過後、50日以内に督促状を発送し、原則として督促状発送日から10日以内に完納されない場合には、滞納処分として差し押さえが可能になります。しかも差し押さえの前提として、滞納者の財産に対する調査権が認められており、任意調査のみならず、一定の場合には強制調査(捜索)も許されるのです」(仲道氏)

自治体は滞納する住民に対し、その所有する不動産や自動車の資産価値、銀行預金口座の有無や残高、いつが給料日なのか、生命保険に加入しているのか、勤務先および給与の手取りの金額、年金や児童扶養手当などの給付金の受給有無および金額など、財産に関する事項を調査することが法で許されている。簡単にこれらの情報を取得することができるのだ。

「けれども日本国憲法で生存権(憲法25条)が認められている趣旨から、税金を滞納していたとしても、滞納者の最低限度の生活が脅かされかねない各種の財産については、差し押さえが禁止されます(国税徴収法75条~78条)。前述したように給与については全額これを差し押さえることは許されませんし、年金も同様です。児童手当や児童扶養手当、生活保護費などの公的な給付についても、特別法(児童手当法第15条、児童扶養手当法第24条、生活保護法第58条など)においてその受給権の差し押さえが禁じられています」(同)

路上の人々のシルエット
写真=iStock.com/Oleg Elkov
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「ある種、公務員は“公平”という言葉の病だと思います」

つまり先の事例はともに「違法な差し押さえ」である。

また差し押さえを増やしたところで本当に税収が上がるのだろうか? 一時的には効果があるだろうが、払いたくても払えない人がほとんどである以上、限界があるだろう。仲道氏もうなずき、こう述べていた。

「どんな差し押さえもエスカレートさせればいずれは違法行為になります。また市民が自分から払う気持ちがなくなるでしょう。行政の中には徴収する場面で、“税負担の公平性を保つため”という名目で、ほんの数円、数十円しかない口座であっても差し押さえる。そんなことをしても手間がかかるだけです。だけどそれをすることが公平だという発想があるのですね。ある種、公務員は“公平”という言葉の病だと思います。金があろうとなかろうと期限までに必ず納めろという。生活に困っている人にそれを貫けば、人を追い詰めますよ。死んでもおかしくありません。行政は、なぜ滞納が生じているのかを調べるべきでしょう。そのために調査権があるのです。滞納者の相談にのり、使える制度を案内し、そこで浮いたお金を国保料にまわすような努力が、多くの自治体には足りません」

一定の要件があるが、家賃に困った時は住居確保給付金がある。会社が倒産してしまったら、ハローワークで手続きをすれば給与の5~8割が給付されるし、職探しもできる。ひとり親家庭であれば、看護師などの資格取得の際に、給付金や貸付金を国や都道府県が行っている。サラ金や銀行に借金があるのなら、弁護士を紹介して債務整理を行わせればいい。実際にそういった取り組みを行っている自治体もある。