安倍氏が当て馬・高市氏を支持した理由

参議院では、当選回数さえ重ねたら比較的容易に女性閣僚になれる傾向があるが、競争が激しい衆議院では中山マサ、森山真弓、田中真紀子、野田聖子、小池百合子各氏に次いで6番目の女性閣僚だった。

女性の総理候補を巡っては、小池氏、野田氏、稲田朋美氏あたりの名が先行していて高市氏の名はあまり出なかった。ところが、2021年の自民党総裁選で、高市氏は河野太郎氏、岸田文雄氏に続く第三の候補として手を挙げた。

安倍晋三氏がこれを支持した理由は、ひとつには、忠実な安倍支持勢力である岩盤保守派が共感を持てる候補がいたほうが自分の陣営を固めるために好都合と考えたことと、一般党員投票で河野氏が過半数を獲得するのを避けるためだった。

その意味では当て馬だったのだが、テレビ出演などで、意外なほど落ち着いた話術と政策への深い理解を示し、一気に株を上げた。結果は3位だったが、大善戦だった。

安倍首相(右)に提言書を手渡す自民党サイバーセキュリティ対策本部の高市早苗本部長=2019年5月14日午後、首相官邸
写真=共同通信社
安倍首相(右)に提言書を手渡す自民党サイバーセキュリティ対策本部の高市早苗本部長=2019年5月14日午後、首相官邸

逆風の中、一般党員投票トップという奇跡

ところが、その翌年には安倍氏が暗殺されてしまい、高市氏は保護者を失った。とくにかつて清和会に属しながら、離脱して無派閥だった高市氏にとって清和会の支持取り付けは難しくなった。

岸田首相の下では、政調会長、ついで経済安全保障相を務めたが、「能登半島の復興を優先するために大阪万博の延期もあるのでないか」などと政府批判ともとられかねない言動をしたり、地元の奈良知事選では自分の元秘書官を推したものの党内をまとめきれず、維新公認候補に敗れるなど失態も目立った。

こうして、2024年の自民党総裁選では、20人の推薦人を集めることも難しいのではないかと噂された。この危機を救ったのは、作家の門田隆将氏や歴史研究家・井上政典氏らのグループで、「高市早苗と歩む福岡県民の会」を皮切りに全国で大イベントを開いて熱狂的な聴衆を集めた。

さらに終盤では、東京都知事選で石丸伸二氏を助けて次点に押し上げた、「選挙の神様」といわれる藤川晋之介氏が加わり、短時間の街頭集会を繰り返し、それを収めたショート動画を拡散するという手法を繰り広げた。

その結果、一般党員投票で首位に立つという奇跡を起こしたのだ。