生成AI全盛の時代、人間にしかできない思考とは何か。そもそも、人類は何のために生まれてきたのだろうか。ベストセラー『なぜ世界は存在しないのか』の著者で、今世界でもっとも注目を浴びている哲学者に聞いた──。
マルクス・ガブリエル
マルクス・ガブリエル
1980年生まれ。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の哲学科正教授に就任。著書『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)は、日本を含む世界中で哲学書として異例のベストセラーに。最新刊に、日本向け書き下ろし『倫理資本主義の時代』(早川書房)。

本質をつかむ天才的な思考の全容

「あなたは生まれながらの天才だ」。幾度もそう言われてきました。私は物心ついたときから、目に映るあらゆるものの仕組みを知りたがりました。ハイハイしているときも、行き先を妨げるものがあれば、それが何なのか、どうすれば乗り越えられるかを考えて試行錯誤していました。記憶をどんなに古くさかのぼっても、私のなかには「物事の本質は何なのか」という哲学的思考が常にあったと思います。

4歳のとき、独学で読み書きを覚え、思考の対象は文字の世界にも広がりました。小学校に入る頃には周囲との差は歴然としていました。私の家は学問に縁のない労働者階級でしたので、両親は「変わった子だ」と思っていたようです。