1万円の弁当に行列ができる
1995年に大丸取締役に就任するまで、大丸オーストラリアの社長として海外勤務が長かった奥田は、帰国後、「なぜショップ運営のテナントに、ウチのバイヤーがいるんだ?」と疑問に感じた。
ショップ運営というものは、販売もリスクも取引先任せであるから、社内の人間に必要なものは、ブランドの選択眼と売り場全体をマネジメントする能力だけのはずだ。商品の買い付けや販売に口をだす必要はない。
「これはいけないと、それぞれの担当がそれぞれのするべき仕事をきっちりと割り振りました。これによって必要な社員の数を半減することができました」(奥田)
大幅なコストカットがあっても売り上げ増につなげられなければ、組織は縮小していくばかりだ。奥田の狙いは、低コストをバネにした成長戦略だ。
「ユナイテッドアローズやビームスなどの人気のあるショップに、テナントとして入ってもらうには厳しい条件をのまなくてはなりません。従来の百貨店の取引先様から比べると格段に手数料・テナント料が違います。百貨店は高コスト体質ですから、お客様の欲しがるブランドを入れたくても、利率を考えると入れることができなかった。すると店頭はどんどん魅力がなくなり『百貨店に行っても、欲しいブランドなんてないじゃないか』ということになる。我々の高コスト体質とお客様のニーズが相反してしまい、完全に悪循環です。ですから、無駄を削ることで、お客様のニーズに応えるブランドを入れる余裕が生まれたのです」(奥田)
では、実際の店舗でどのような改革がなされているのだろうか。
東京駅八重洲口の付近で人だかりが目につく。「いらっしゃいませ!」、威勢のいい声に誘われて進むと、そこは、お弁当、お総菜、スイーツの専門店が並ぶ、大丸東京店が誇る食料品売り場「ほっぺタウン」だった。大丸東京店は12年10月にリニューアルオープンし、売り場を大幅に増床したばかりだ。ひとつ1万円という豪勢な「肉弁当」には連日行列ができている。