誤診を避けるために、患者は何ができるか。内科医の名取宏さんは「検査ばかりする医師には気をつけたほうがいい。反対に無駄な検査を避けるために、ていねいな問診や身体診察を重視する医師は信頼できる」という――。
コンピューターを使用する医師
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「後医は名医」に思える理由

よく「最初に受診した病院で治療を受けたものの症状が改善せず、病院を変えたところ、別の病気だとわかった」という話を聞きます。

たとえば、「最初の病院では『胃炎の疑い』と診断されて胃薬を処方されていたが、なかなか治らないので別の病院を受診したら『膵がん』と診断された」といったものです。患者さんにしてみたら、「がんを見落とされた。医療ミスではないか」「前の医者は、ヤブ医者だったのでは」と感じるのは当然のことです。実際、医療ミスはゼロではないし、前医がヤブだったという事例もあるでしょう。

しかし、前医と後医で診断が異なる事例のすべてが、前医の能力不足によるものとは限りません。「後医は名医」という言葉があります。病気の診断は、時間が経てば経つほどやりやすくなります。病気が進むことで症状がより明確になってきますし、前医での治療があまり効果がなかったという情報は診断の大きな助けになります。だから、前医よりも後医のほうが名医だと思われやすいのです。症状が出たばかりの初期の段階では、たとえ後医にかかっても正しく診断されなかったかもしれません。

初診での正確な診断は難しい

つまり、医師であっても初診の時点でピタリと100%正しく診断することは現実的には難しいのです。診療において正しく診断することは言うまでもなく重要なことですが、そこだけにこだわると、かえって診療の質を下げてしまうこともあります。

臨床医は「鑑別診断」といって、症状や年齢、性別、ご本人の既往歴や家族歴(家族の病気)を参考にし、可能性のある病気をいくつか想定しながら診療にあたります。たとえば、「胃に違和感がある」という訴えの患者さんが受診したとしましょう。本命は「胃炎」や「胃潰瘍」といった胃の病気です。もちろん、「胃がん」の可能性もあります。ただ、上腹部に症状が出る病気は、胃の病気以外にもたくさんあります。

「心筋梗塞」の典型的な症状は胸痛ですが、胸の痛みはないのに上腹部の痛みや違和感だけが生じることもあります。「急性虫垂炎(いわゆる盲腸)」は、病気が進むと右下腹部が痛みますが、初期はよく上腹部に症状が現れます。その他に「急性膵炎」「急性肝炎」「胆石症」「過敏性腸症候群」などが鑑別診断として挙げられます。「膵がん」の可能性も否定できません。