検査をするほどいいわけではない

ここで早急に正しい診断をすることだけを目指すと、患者さんにさまざまな検査を強いることになりかねません。採血、心電図、レントゲン、上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)、腹部超音波検査、腹部造影CT、MRCP(MR胆管膵管撮影)などなど。

ここまで極端ではないにせよ、積極的に数多くの検査を行う病院もあります。また、そうした検査を望む患者さんもいます。でも、検査には苦痛や合併症のリスク、金銭的な負担というデメリットがあるのです。何でもかんでも検査すればいいとはいえないでしょう。残念なことですが、患者さんのためではなく、検査にともなう診療報酬や、誤診リスクを回避する「防衛医療」を目的として過剰に検査を行う病院もないとはいえません。

では、初診で最も重要なことはなんでしょうか。それは「緊急に治療を開始しないと致命的な結果を招く疾患」を見落とさないことです。ここでいう緊急とは、一分一秒を争うことです。「胃がん」や「膵がん」は早期治療が必要とはいっても、数日から数週間の治療の遅れはさほど問題になりません。一方で「急性心筋梗塞」を見落とすと、患者さんの生死にかかわります。初診時にさまざまな検査を行うよりも、緊急性の高い疾患をまず除外し、その後は経過を見ながら検査を追加していくほうがスマートな診療です。

放射線胸部X線フィルムを解析する医師
写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov
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問診や診察で病名を絞っていく

ていねいな問診や身体診察は、無駄な検査を避けるために役立ちます。「高血圧」と「糖尿病」の治療中の患者さんが上腹部違和感を訴えた場合は、心筋梗塞の可能性を考えなければなりません。高血圧と糖尿病はどちらも心筋梗塞のリスク因子ですし、糖尿病による神経障害があると痛みを感じにくくなります。一方でリスク因子のない若年者の場合は、心筋梗塞である可能性はきわめて小さいのです。

症状がいつから、どのようにはじまり、どれぐらいの時間続くのかも重要な情報です。突然に起こった症状は心筋梗塞や「大動脈解離」といった血管系の疾患の可能性が高く、迅速な対応が求められます。一方で、1カ月前からの症状であれば緊急性のある疾患や急性の感染症の可能性は低いと判断できます。

こうした主訴以外にどのような症状があるのかも患者さんに確認する必要があります。上腹部違和感のほかに、体重減少や食欲不振があれば胃がんや膵がんといった悪性疾患の可能性が高くなり、発熱があれば急性虫垂炎や急性胃腸炎といった感染症の可能性が高くなります。

身体診察も欠かせません。眼瞼結膜(まぶたの裏)を診て貧血があれば「慢性の消化管出血」を疑いますし、皮膚や眼球が黄色になっていたら「胆道系の疾患による黄疸」の可能性を考えます。急性虫垂炎では、おなかの特定の場所を押さえると痛みを強く感じます。

もちろん検査は大切なものですが、過剰な検査が患者さんの負担を増やし、医療費の高騰につながることも忘れてはなりません。効率的で効果的な医療を実現するためには「本当に必要な検査は何か」を意識する必要があるのです。