頭に鹿の角が生えた女子高生

トップ5で3作品、トップ10で8作品が新作というのはここ数年で類を見ないほど新作率の高いクールだった。前期の2024春(4~6月期)ではトップ5に新作1本、トップ10で新作3本だった。

とにかくインパクトを残した、という点だと「しかのこのこのここしたんたん」を連呼してダンスが広がった4位『しかのこ』ではないだろうか。半年前の楽曲BBB×『マッシュル』2期を彷彿とさせた。このアニメは、一言でいうと狂気じみたコメディ作品である。

東京都日野市の高校を舞台に、なぜか頭に鹿の角が生えた主人公・鹿乃子のこ(詳細は説明されていない)、元不良の女子高生・虎視虎子を中心に話が展開する。

マタギに追われたり、ゆるきゃら「せんとくん」とのプロレスが最終話となるようなカオスの集大成的な本作は、制作現場にも作品性が伝わり、声優がガスマスクを着けてアフレコをしたりと、とにかく日本中のいろんな脳みそをバグらせた。そして、それは海外でも例外ではなかった。

MALに投稿された海外ファンの声を拾うと、「シカ! シカ、シカ、シカ。シカのカルト教アニメ。ついにアニメ漫画はここまできた。これは京アニの日常アニメの再来なのか?」「オープニング曲がキャッチーすぎて夢にすら出てくる(悪夢)」「脳腐れの極み」「100年たって、ダダイズムが再び台頭してきているようだ」……などなど。おおむね日本ファンと解釈一致で受け入れられている様子が浮かび上がってくる。

アニメ作者とVTuberとの距離感

原作者となる「おしおしお」氏は有名なイラストレーターだ。2014年に連載していた『神様とクインテット』(『まんがタイムきらら』芳文社)も狂気じみた作品なので、そういう作風を好む人なのだと思う。

マンガ以外に、女性VTuberタレントグループ、ホロライブ「天音かなた」や、VTuberグループ、にじさんじ「空星きらめ」のイラストも手掛けている。(業界的には、VTuberのキャラクターデザインを担当したイラストレーター、絵師のことを「ママ」と呼ぶ)

余談だが、近年こうした絵師自体がVTuberのように生出演で活躍する事例も相次いでる。

有名どころでいえばホロライブ「大空スバル」の“ママ”で知られる「しぐれうい」。自身がフォロワー200万人規模のVTuberでもあり、作曲した「粛聖‼ ロリ神レクイエム☆」は2022年のバズリ楽曲の1つを出すようなタレント性をもつ。ただ、本人はあくまで「本職はイラストレーター」であることを徹底している。

こうした“顔のみえる裏方”は、一昔前でいえばタレント性あふれる放送作家やプロデューサーのようなものかもしれない。

『しかのこ』は、以前の作品でいえば『うまるちゃん』や『ぼっちざろっく』、『ボボボーボ・ボーボボ』のような一見理解しがたいアバンギャルドさをそなえている。しかし、それが日本だけでなく、北米や欧州でも同じように受け止められているというのはにわかに信じがたい。ただ、放送前に8万人だったMembersが3カ月経過で倍以上に膨らみ、今クールでトップ5に入っているのだ。

「結局『よくわからんがかわええからええか。』と脳内から直接言葉が出る」という天音かなた自身の評価が本作のすべてといってよい。