「手製の凶器」の作成が容易になってしまった
昭和の昔から、定職に就かず、家庭に引きこもる若者は少なからず存在した。その中には、金属バットや刃物で家族や周囲の人間を襲う者もいた。しかし、銃や爆弾を自作して、要人を襲撃する犯罪はほとんどなかった。
地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教の摘発以降、政治や宗教の過激派による組織的なテロ事件も影を潜めた。戦後の混乱期などには、要人へのテロはあったが、遠い過去の出来事だ。
まして、銃や爆発物の規制が厳しい日本では、長い間、一般の個人がこうした武器を入手するのは困難だった。だから、選挙となれば、より多くの聴衆の動員や触れ合いが優先される。首相や閣僚、政党幹部の遊説現場での警備は米国などに比べて、緩いままだ。
しかし、実態をみれば、ネット情報の急拡大で、銃や爆発物を手作りすることは難しくなくなった。その状況の変化が、安倍元首相や岸田首相襲撃事件で、「ローンウルフ(一匹狼)」と呼ばれる個人による犯行を可能にした。ネット社会の影の部分がテロ行為などの重大犯罪を助長しているのに対し、治安当局も政党の側も、まだまだ「日本の社会は安全だ」という思い込みから抜け切れていないのではないか。
要人を守る側の対応は、昭和時代からあまり変わっていないのが実情だ。
これまでになかった凶悪犯罪が多発
岸田首相襲撃事件から1カ月余り後の2023年5月に開かれたG7広島サミットでは、厳重な警備体制が敷かれたが、一部の参加国からは不安の声も上がっていたという。2025年には参院選がある。「選挙には、政治家と有権者の触れ合いは欠かせない」という政党の論理に押し切られれば、重大な事件がまた起きないという保証はない。
ここ1、2年前から、全国各地で、これまでにはなかったタイプの凶悪犯罪が多発している。見ず知らずの他人をいきなり刺殺したり、家族連れで賑わうショッピングセンターに車を突っ込ませて死傷者を出したり、といった不条理な殺傷事件が頻発。日本の安全・安心の象徴である新幹線も通勤電車も安全な場所とは言い切れなくなった。
街に増えている無人販売店では、代金を払わずに商品を持ち去る窃盗事件が後を絶たない。回転寿司などの外食チェーン店では、湯呑みや醤油瓶を舐めて戻したり、他人が注文した皿に唾をつけたりする「外食テロ」事件もなくならない。
無人販売店の窃盗事件と回転寿司チェーン店などでの「外食テロ」からみえてくるのは、「性善説」に立った店の仕組み、システムである。たいていの無人店には誰でも入店できる。商品ケースに鍵はかかっていない。客は、そこから商品を取り出して、自己申告で入金し、買い物を終わる。日本以外の国の常識なら、これでは、盗んでください、という店のしつらえだ。
実際、こんな店を海外で出したら、あっという間に店内の商品ケースは空になり、ついでに、入金ボックスも壊されて現金も盗まれるに違いない。