子育て支援策や防衛費倍増については、岸田政権が一部について財源の手当を行ったものの、残りについては手つかずの状態である。石破政権では地方創生交付金の倍増も加わっており、インフレを悪化させずに各種政策を実施するには、財源の確保は必須と言えるだろう。
日本の法人税は安倍政権下で3回も減税されており、消費税に代表されるような個人の負担増(消費税は納税するのは事業者だが負担は個人が行う)と比較すると、企業に対して著しい優遇措置が実施されているのは明らかである。
「アベノミクスの継続」よりも険しい茨の道
賃金が下がり、所得格差が拡大する日本において、負担能力を持つ富裕層や、大企業に対して増税することは合理的な選択であり、これを中間層の所得拡大策に充当すれば、中長期的な消費拡大が見込める。仮に両者を実現できれば、消費税を増税することなく財政再建と経済拡大の両方を実現できるだろう。
だが、一連の増税策に対して、富裕層や大企業から猛烈な反発が出るのは確実だ。こうした状況をよく分かっているせいか、石破氏は所信表明において増税について一切、口にしなかった。だが石破氏が自らの政策遂行にあたって増税が必須と考えているのは明らかであり、これらについては政権基盤が確立してから議論されることになるだろう。
このように石破政権は、単なる岸田政権の踏襲に見えて、実は厳しい政策を念頭に置いていることがわかる。一方で実現のハードルは高く、失敗すれば政権の行く末も危うくなる。
これこそが石破政権が抱える最大のリスクであると同時に、石破政権が持つポテンシャルでもある。
一連の政策が実施されれば、短期的には経済や市場に逆風が吹くが、中長期的には中間層の底上げによって円高と株高の両方を実現するシナリオもあり得る。石破政権の誕生は、日本経済がまさに分水嶺に差し掛かっていることを端的に示している。