突然中指を立てたり、「バカ」と言ってしまう

そして、僕の場合は、「やってはいけない状況で、やってはいけないことをしたくなる」という、悪魔的な強迫性の衝動があります。

一時期とても困ったのが、目の前にいる人に対して、突然中指を立てたくなってしまう衝動です。ご存じの通り、相手に中指を立ててみせれば、当然相手の心証が悪くなります。僕の病気について知っている人でも、「なんでいきなり中指を立てられなきゃいけないの?」と戸惑っている姿を、何度も見たことがあります。

最近は、その衝動が浮かんだときは、中指以外の指も伸ばして、ストレッチをしているように見せかけてフォローしていますが、無意識のうちに中指を立てていないかという不安はいつもつきまとっています。

それだけでなく、「バカ」「死ね」などの汚い言葉を口にしてしまう「汚言症おげんしょう」なども、僕が持っている病気のひとつ。僕の病気について知らない人の前で出てしまったら、「ケンカを売られたのか?」と誤解されてもおかしくありません。

こうした症状は、周囲とのコミュニケーションに大きな亀裂を生むため、僕を含むトゥレット症の当事者が社会生活を送るうえで非常に大きなハードルになっています。

最高の状態で中学生活のスタートを切ったが…

中学校に上がった後、僕のチック症はどんどん悪化していきました。

しかし、親や先生など、周囲からの配慮のおかげで、中学校のクラスは、小学校からの友達がたくさんいる状態で進学することができました。環境の変化によって症状が悪化しがちなトゥレット症ですが、周囲の友達のサポートもあって、入学してすぐに新しいクラスメイトともうまくなじむことができたのです。

当初は「きちんと周囲に受け入れてもらえるだろうか」と心配していた僕の病気についても、クラス内ではひとつの個性やトレードマークとして認識されていました。

たとえば、仮に「うるせえ!」「なんだお前」などと言ってはいけない言葉を口にしてしまう汚言症が出たとしても、「酒井がまた変なこと言ってるよ!」とみんなが面白がってくれる。自分で言うのもなんですが、ちょっとした人気者みたいな雰囲気すらありました。

考えうるなかで最高の状態で中学生活のスタートを切った僕でしたが、その1カ月後、それは突然の終わりを迎えます。

父親の仕事の関係で、突然アメリカに引っ越すことになったからです。

朝、誰もいない教室
写真=iStock.com/ferrantraite
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