自分の居場所や存在理由はどう見つければいいか。千船病院看護部長の藤原恵子さんは「私は日本各地の病院で勤務したが、どの場所でも大きな花を咲かせるのは実際には難しい。根っこ1本だけでも地面の中で伸ばそうと思っていた」という。吉本興業前会長で実業家の大﨑洋さんとの対談をお届けする――。

※本稿は、千船病院広報誌『虹くじら 04号』の一部を再編集したものです。

安心させるために男性患者の手を握る医師
写真=iStock.com/DragonImages
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看護の仕事は五感を使い、患者さんの状態を知ること

【藤原恵子(社会医療法人愛仁会 千船病院 看護部長)】前号のこの連載(吉井勝彦病院長との対談)で、大﨑さんの奥さまが入院されているときの話が私にとってずっと頭から離れないんです。

【大﨑洋(実業家、吉本興業前会長)】(少し首を傾げて)医師の先生、看護師さんたちが病室に来られたときのことですか? 先生たちは(ベッドから離れたところで)1分ぐらい立って見ているだけなんです。

身内の感覚からすれば、どうせ短い時間しかいられないんだから、ベッドのところまで行き、手でもさすってあげればええのに、と思いました。

大﨑洋さん(左)と藤原恵子さん(右)
撮影=奥田真也
吉本興業前会長で実業家の大﨑洋さん(左)と千船病院 看護部長の藤原恵子さん(右)

【藤原】看護の仕事の基本は五感を使い、患者さんの状態を知ることなんです。どんな風に辛いのか、苦しいのか、まず目で見て観察する。匂いでわかること、触れてみてわかること、そしてお話できない方には心の声を聴こうとする。だから、手でもさすってあげればいいのにって大﨑さんが思われたことが、同じ看護師として申し訳ないというか……。

【大﨑】みなさん忙しいのは分かるんです。患者の家族にしてみたら、(医師の)先生が来てくれるだけで安心感がある。ただ、もう少しできないのかなって。

【藤原】新型コロナウイルス感染症の頃は、素手で患者さんを触ることができなかったんです。手袋をはめていると、感覚がどうしても鈍ってしまう。

患者さんの皮膚がカサカサしているなとか、脈が弱いなとか、分かりにくい。その感覚をより研ぎ澄ませなければならないって思ったんです。