無理をしても無理なものは無理

小学校4年生の頃に水泳を始め、2008年、高校3年生で初めて北京2008パラリンピックに出場しました。以来、ロンドン2012大会、リオ2016大会、21年に東京2020大会と連続で出場し、現在は今年開催のパリ大会に向けて調整に励んでいます。

4回のパラリンピック出場を経て僕がたどり着いたのは、「尖らない生き方」。東京大会で初めて金メダルを獲得できたのは、リオ大会の直後から「尖らない生き方」を意識するようになり、結果的に幸運をもたらしてくれたからだと思っています。

パリ2024パラリンピックの日本代表推薦選手選考競技会となる「2024日本パラ水泳春季チャレンジレース」で男子100mバタフライ視覚障害のクラスに出場した木村選手は、1分3秒03のタイムでフィニッシュ。派遣基準記録を突破し、パリパラリンピックの代表に内定
写真=SportsPressJP/アフロ
パリ2024パラリンピックの日本代表推薦選手選考競技会となる「2024日本パラ水泳春季チャレンジレース」で男子100mバタフライ視覚障害のクラスに出場した木村選手は、1分3秒03のタイムでフィニッシュ。派遣基準記録を突破し、パリパラリンピックの代表に内定

というのも、僕の場合は、下手に気負いすぎたり、肩ひじを張りすぎたりすると、本来の調子が出せないことが多いのです。アスリートというと徹底的に自分を追い込み、常にストイックな生活を送って心身を鍛え上げている。そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。僕もリオ大会までは、そんな生き方を目指した時期がありました。でも、それでは金メダルを獲得できなかった。逆に、水泳以外の時間は徹底的に脱力し、肩ひじを張らずに生きるようにしてみたら、次の東京大会で悲願の金メダルを獲得できたのです。

水泳選手である僕にとってパラリンピックで金メダルを獲得するということは、自分のフィールドで最大の結果を出すということ。こう抽象化して考えれば、ビジネスパーソンの方もまた、「尖らない生き方」を試してみることで何かしらの成功を収められるかもしれません。頑張っているはずなのにいまひとつ成果が出せない。もしそんなふうに悩むことがあれば、試しに「尖らない生き方」をしてみてはいかがでしょうか。では、どうすれば実践できるのか。それをお話ししていこうと思います。「尖らない生き方」を意識するようになったきっかけは、16年のリオ大会で金メダルを逃したことでした。

というのも、12年のロンドン大会終了後からリオ大会までの4年間、僕は「次は金メダルだ!」と意気込んで、自分でも笑ってしまうくらい肩ひじを張った生き方をしていたのです。心身ともに徹底的に自分を鍛え上げ、生活のすべてを金メダル獲得のために費やしていた。すべての行動の指針は「それはメダル獲得のために有益かどうか?」。明らかにオーバーワークなのに、それでもハードな練習を自分に課す日々を過ごしていました。スポーツ選手なりの尖り方をしないといけないと思い込んでいたのです。

なぜそこまで自分を追い込んだかというと、「苦しいこと、つらいことをすれば必ず報われるはずだ」という極端な思い込みをしていたからです。しかし、結果はどうだったか。銀メダルを2個、銅メダルを2個獲得できましたが、目標としていた金メダルは逃してしまいました。そのときに、「肩ひじを張りまくって生きていたことに、なんの意味があったのだろう?」と、思ったのです。リオ大会が終わったときに残っていたのは疲労感だけ。無理をしても、無理なものは無理だとわかった。誤った考え方に支配されていたことを悟った瞬間でした。