遺産のトラブルを避けるにはどうすればいいか。弁護士の古山隼也さんは「生前に現金を手渡ししていると証拠が残りにくく、相続で争いごとになりやすい。また、相続において実印や印鑑登録証明書は非常に重要なものなので、内容もわからずハンコを押すのはやめたほうがいい」という――。

※本稿は、古山隼也『弁護士だからわかる!できる! あんしん相続』(Gakken)の一部を再編集したものです。

議論するカップル
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相続でもめるのは「億万長者」だけじゃない

「いやー、ウチはもめるほど遺産がないから相続も楽勝でしょう」と思い込んでいる方もいます。でも「相続でゴタゴタするのはお金持ちだけ」というのは、幻想です。

遺産が少ないからといって、相続がスムーズに進むとは限りません。

最高裁判所事務総局「令和4年司法統計年報」によると、2022年に家庭裁判所で取り扱った遺産分割事件の件数は1万2981件です。そして、遺産分割事件で認容・調停成立したもののうち、遺産額1000万円以下が約33%、遺産額1000万円超から5000万円以下が約43%と、約4分の3が遺産額5000万円以下です。

つまり、遺産が少なくても、もめるときはもめるということです。

いままでの不平不満が表面化してしまう

・不動産が多いともめやすくなる

特に遺産のほとんどが不動産で預貯金は少ないという場合は、もめやすい傾向にあります。

不動産は評価方法が複雑なため、相続人(故人の遺産を相続する人)の間で意見の食い違いが発生しやすいだけでなく、被相続人(故人)の自宅に以前から同居しており、当該自宅を引き継ぐなどの場合、他の相続人に代償分割として支払う金額は自腹を切らなければならないため、評価方法・評価内容に関してシビアになりがちです。

・感情面の問題が残っている

親やきょうだいとの関係でこれまで溜め込んできた不平不満など、感情面のわだかまりが相続をきっかけに表面化することが多いです。

「お金の問題じゃないんだ!」と感情をぶつけ合うようになると、相続のもめごとは泥沼化します。

相続は単なる財産の分配ではありません。家族の歴史や関係性、それぞれの気持ちが複雑に絡み合って、当事者だけではほどけなくなることもあるのです。