政治信条を超える世襲政治家の連帯感
さらに取材していくうちに、洋平氏と麻生氏の間には、私たち一般庶民には窺い知れない絆があるように感じ始めた。それは世襲政治家、それも煌びやかな政治名門一族が共有する「エスタブリッシュメント志向」というほかない独特の連帯感のようなものだった。
麻生氏は明治国家の基礎をつくった大久保利通や戦後日本の礎をつくった吉田茂の子孫である。洋平氏も大物政治家・河野一郎元副総理を父に持ち、叔父も参院議長を務めた政治名門一族だ。
彼らは叩き上げの政治家に対する強い警戒感を隠し持っている。今の政界でいうと、政治家秘書から国会議員の座をつかみ取り、ライバルたちを蹴落として実力者に這い上がった菅氏や二階俊博元幹事長のような豪腕政治家たちだ。麻生氏と安倍氏が心を許し合っていたのも、政治名門一族同士がお互いに抱く安心感を共有していたからだろう。右や左、ハトやタカといった政治信条よりも政治家同士を結びつける強固な連帯感である。
改革派から守旧派へ瞬く間に転落した
洋平氏が麻生氏に派閥を引き渡す際、将来は息子(河野太郎氏)に再び派閥を引き戻す裏約束をしたかどうかはわからない。明示的な約束はおそらく交わされていないだろうが、暗黙の合意はあったかもしれない。そこには政治名門一族同士でなければ窺い知れない世界がある。
麻生氏が河野氏の台頭を警戒しつつも派閥から放り出さず、河野氏も麻生氏を煙たく感じながらも派閥から飛び出さなかった背景には、いずれは麻生派は河野派として継承され、そこに再び麻生氏の息子が加わるという世代を超えた連帯意識が横たわっていたのではないか。
河野氏が麻生派代表として出馬するに至るまで、麻生氏と河野氏はふたりだけの会食を重ねた。その場では目前に迫る総裁選の情勢分析だけではなく、麻生派をこれからどうしていくのかという、麻生家と河野家の世代を超えた話し合いも行われたに違いない。
今回の総裁選では、それが河野氏の致命傷となった。裏金事件で派閥解消が大きな流れになっているのに、河野氏は派閥のしがらみから抜け出すことができなかった。その結果、河野氏は改革派から守旧派へ瞬く間に転落した。そして今、総裁レースの最下位を争っている。もやは派閥を継承するどころの騒ぎではない。政治生命を絶たれる危機に陥ったのである。
河野氏の首相就任は、河野家三代(一郎氏、洋平氏、太郎氏)の悲願である。けれども政治家として恵まれた環境に生まれたことが必ずしも優位に働くとは限らない。政界の奥深い断面である。