「日本人をたくさん殺せる」とロシアの義勇兵になったインフルエンサーも
中国版のTikTokでもWeiboでも、SNS上には大量の日本批判のコンテンツがインフルエンサーによって発信され、それが大量に閲覧されるとカネになることから、発言内容が荒唐無稽な過激さを競うようになるのもいつか見た風景であるとも言えます。
日本でも、靖国神社に放尿したり落書きをしたりした中国人が出て問題になり、さすがに中国当局も本邦外務省に平謝りの末に、帰国し凱旋したはずのインフルエンサーを当局が拘束し取り調べをしています。
それどころか、中国やロシアの一部当局では、ウクライナ側に立って日本人義勇兵が多数参戦しているというプロパガンダを流したことで、うっかり信じた中国人インフルエンサーが「日本人をたくさん殺せる」とロシア側義勇兵として参戦後、戦死してしまうという事態まで発生していました。
中国人全員がそのような軽挙妄動をするという話ではなく、日本でも、また中国でもこれだけSNSが普及し情報が飛び交う中で、一定の割合でそういういかれた情報を正しいと信じてしまう人がおり、さらにその中で一定の割合で具体的な行動に移す人が出る、ということでもあります。
日本でも中国でも、良い人もいれば、アカン人もいるのです。欧米や日本ではこれらのSNSは単なるプラットフォーム事業ですが、中国においては実質的に統治ツールになっているのです。
この辺のさじ加減は、明らかに中国の情報規制当局が握っているのは間違いないのですが、あくまでこれらの問題は対症療法であって、一部の軽挙妄動する中国人の発信を全面的に検閲して止めるまでには至っていません。
そういう中国の社会環境において、今回のような事件が発生したので日本政府が再発防止を中国政府に求める、というのは極めて微妙です。踏み込み過ぎると内政干渉と突っぱねられますし、意味のない抗議や遺憾砲発射を繰り返しても「反省してまーす」とあしらわれて終わりかねません。
実のところ、中国と日本の間の緊張関係で言うならば、これら言論面だけでなく、不当なスパイ容疑で拘束される日本人が起訴されてしまい解放できなくなっているという、事実上の北朝鮮拉致問題と構造的に大差ない問題まで引き起こしてしまっています。
2018年には、カナダを訪問した中国通信機器大手ファーウェイ(Huawei)社創業者の娘の孟晩舟さんが、秘密裏にイランを支援したかどでカナダ当局に拘束されるという事件が発生しました。この際、結局中国が特に問題のないカナダ人2名を中国で逮捕して身柄を拘束し、ある種の捕虜交換のようなプロセスで孟晩舟さんを司法取引の果てに釈放させるという決着となりました。
国際問題においては「お願いします」「分かりました」という穏やかな交渉ではなく、報復合戦の末の妥結も往々にして発生します。日本に住む罪のない中国人が排外主義的な日本人の妄動の犠牲とならないようその安全をしっかりと守りながらも、中国に住む日本人の安全を守らせるための交渉材料を捻り出さない限り、中国当局もこの問題を真摯に受け止め再発の防止に努めようとはならないでしょう。