「ガチ中華」と呼ばれる中華料理店が東京近郊を中心に急増している。日本人の舌に合わせた味付けはせず、一部の店は電話でしか予約できないのが特徴だ。なぜこのような店が人気なのか。『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)を出したジャーナリストの中島恵さんが解説する――。
池袋にあるガチ中華のお店。中国本場の素材と調味料を使い、日本にはない味わいが楽しめる
筆者撮影
池袋にあるガチ中華のお店。中国本場の素材と調味料を使い、日本にはない味わいが楽しめる

高田馬場のガチ中華は「中国人客が9割」

東京近郊を中心にガチ中華がブームになっている。ガチ中華とは、日本人向けにアレンジしていない本気(ガチンコ)の本場中華料理店という意味で、数年前から急速に増えている。都内で多いのは、新宿、池袋、高田馬場、上野、小岩などのエリアだ。

中国の有名チェーンが東京に進出するケース、異業種で働いていた在日中国人が飲食業に参入するケース、最近、日本に移住(=ルン)してきた富裕層が比較的始めやすい事業として開店するケースなどがある。

いまでは「四川風火鍋」「羊肉の串焼き」「ザリガニ」など、数年前まで一般の日本人が一度も見たこともなかったメニューでさえ、珍しいものではなくなった。いずれも主なターゲットは、日本に80万人以上もいるとされる在日中国人だ。

23年に私が訪ねた高田馬場の湖南料理店は、客の9割が中国人で、店内には中国語が飛び交っていた。顧客は20~30代が多い。内装といい、店の雰囲気といい、メニューといい、まるで中国の飲食店に入ったかのようだ。

なぜかグルメサイトでネット予約できない

お店に向かう前、グルメサイトで検索したところ、ネット予約はできず、電話でしか対応していないことを少し不思議に思った。そうしたお店も、もちろんあることはあるが、徐々に少なくなっている。電話してみると、店員は当たり前のように中国語で受け答えをした。なぜネット予約ができないのか。

店に着いてすぐその理由がわかった。中国人客は店のウィーチャットとつながっており、そこに直接予約を入れるからだ。つまり日本のグルメサイトに「店舗情報」は掲載されてはいるものの、店側もウィーチャットを使いこなせる中国人の顧客しか、ほぼ想定していないということ。電話で予約する人などほとんどいない上に、注文もすべて中国語なのだ。

中国人が多く住むエリアに必ずあるのが中華料理だ。これは日本に限らず、世界のどこにいっても鉄則のようだ。新宿、池袋などに「ガチ中華」の店が多いのは、そこに中国人が多く集まっている証拠でもある。中国人向け予備校が多い高田馬場も同様だ。