パルグループホールディングスの雑貨店「3COINS」が好調だ。マーケティングが専門の高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「社内インフルエンサーの育成と活用が拡散力を強化している。そこまで有名ではない“小さなインフルエンサー”の効果はマーケティングの研究・実務でも明らかになっている」という――。
考えながらスマホを使用している女性
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グループ成長の原動力となっているスリーコインズ

アパレルや雑貨を展開するパルグループホールディングスは、2024年2月期の連結売上高が1925億4400万円、前年度17.1%増で過去最高を記録する好調ぶりだ。その成長の原動力になっているのが、前年比28.8%増の630億6400万円を売り上げる雑貨店「3COINS(スリーコインズ)」である。

1994年に雑貨好きの社員が社内提案制度を利用し、大阪・梅田に小さな路面店を出したことから始まったスリーコインズは、いまや全国に300店超を展開する人気チェーンとなっている。このスリーコインズの躍進の背景には、ニッチな需要を掘り起こすヒット商品を作り続ける開発力と、その商品を広め続ける拡散力がある。単発ではなく、継続的にヒットを生み出し続ける2つの力こそが成長の源と考えられる。

傘に付けておいて、傘を使った後には雨水をサッと拭き取れる「傘シュシュ」。使わないときは折りたたんで、利用時は三角柱型になる「折りたたみ式メガネケース」。衣類を手洗いする際の洗濯石鹸が使いやすくなるシリコン製の「洗濯石鹸ケース」。こうした「あなたの“ちょっと幸せ”をお手伝いする」というコンセプトを体現するニッチなヒット商品が継続的に生み出され、SNSでバズって話題を呼んでいる。このスリーコインズの開発力と拡散力について、詳しく見ていこう。

3COINSの1号店(※現存していません)
3COINSの1号店(※現存していません) パルグループホールディングスプレスリリースより

「ありそうでなかった」商品を開発

スリーコインズの300円均一の雑貨店というコンセプトは、「100円ショップは便利だけど、ちょっと物足りない」や「ちょっと安っぽすぎる」といった消費者の本音に応えることで人気を集めている。安っぽすぎず、買いやすく、実用性もデザイン性もちょうどいい商品を幅広く揃える開発力は、欠かすことのできない強みである。生活雑貨に始まり、文房具、インテリア、収納グッズ、食器、バッグや帽子、アクセサリーやコスメなど、取り扱う商品ジャンルの幅を拡大し続けている。

メインターゲットには、情報感度の高い30代女性が設定されているが、その設定に絞り込みすぎずに、あえて緩く広く、ありそうでなかった、かゆい所に手が届くさまざまな商品を開発する方針が取られている。商品部にいる20名ほどの商品企画担当は、それぞれに担当カテゴリーを持ち、店頭の販売スタッフとしてユーザーのリアルな声に接してきた経験を活かし、また自分自身の個人的なこだわりも発揮しながら、ニッチな商品を実現しているという(※1 )

推し活のトレンドに応じた、ライブ会場で使ううちわやペンライトを保護するカバーやチケットホルダーは、「まさにこういうものが欲しかった!」と歓迎された。愛猫家だけに向けた、抜け落ちたネコのひげを保管する「ひげケース」は、「マニアックすぎる」としてSNSで話題を呼んだ。