「ETCカード保有者の多くが詐欺の犯罪者にされてしまう」
つまり、クレジットカードに紐づけられたETCカードを利用する場合、クレジットカード会員本人が乗車していない車でETCレーンを通過してしまうと、規則上は、「ETCシステムの電子計算機に虚偽の情報又は不正の指令を与えた」ことになるわけです。
しかし、こうした事例が「電子計算機使用詐欺罪」に当たるとなると、困った問題が生じると松宮教授は指摘します。
「ETCを利用して有料道路を通行する車に、カードの名義人が乗車していなければならないというルールを、はたしてどれだけの人が知っているでしょうか。私も含め、おそらくこれまで多くの人が認識していなかったのではないかと思います。実際に、自分名義のETCカードを他人に貸したことがある人の割合が4割近くに上るというアンケート結果も出ているのです。このような中で、電子計算機使用詐欺罪の成立を認めると、ETCカード保有者の多くが詐欺の犯罪者にされてしまう恐れがあります。この罪が成立するためには、刑法246条の2(*上記)の構成要件の充足と、これに対応する『罪を犯す意思』つまり、故意がなければならないのですが、今回の事例を見てもわかるとおり、関係者にはそのような『意思』はそもそもないのです。でも、今回の判決に倣うと、家族のETCカードを(その家族が乗車していない状態で)利用した人は、起訴されれば前科が付いてしまうのです。こうなると一億総前科ですね」
今回の大阪地裁判決に対する判例解説については、以下『家族内ETC利用に電子計算機使用詐欺認めた裁判例』に詳しく掲載されています。
松宮教授は本論稿を「一億総前科という事態は回避できないのである」と厳しい口調でまとめておられます。関心のある方はぜひお読みください。
いつ逮捕、起訴されるかわからない事態に…
「一億総前科」……、その中に自分も含まれるとなれば安穏とはしていられませんが、この判決に則れば、道路会社の営業規則が変わらない限り、多くのドライバーがいつ逮捕、起訴されてもおかしくないのが現実です。
家族カードに付帯するETCカードは、家族会員の名義で発行されるので、これさえ発行されれば、貸し借り問題はクリアになるはずです。しかし、現実には、家族カードに付帯するETCカード発行に対応していないクレジットカード会社もあり、実際にはその発行数は少なく、一般的ではないようです。こうした状況を鑑みれば、今回の判決は見直されるべきでしょう。
ちなみに、どうしてもクレジットカードの契約ができない場合は、有料道路の通行料金支払いに限定した「ETCパーソナルカード」を申し込むことができるそうです。
このカードは、東/中/西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社の6社が共同して発行しているもので、申込み時に保証金(デポジット)を預託するといった条件を満たせば発行されます。