インド洋に浮かぶ北センチネル島に、孤立状態で数千年間存続している先住民グループがいる。シカゴ・デポール大学の地理学講師であるマキシム・サムソンさんは「よそ者が強く拒絶されるようになったのは驚くに当たらない歴史がある。どんなに善意ある接触であっても島民の迷惑になるだけだ、というのが現在の多数意見になっている」という――。

※本稿は、マキシム・サムソン著『世界は「見えない境界線」でできている』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

夕暮れの海
写真=iStock.com/Christa Boaz
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“非接触”を維持している先住民グループ

主よ、この島では誰もあなたの名前を聞いたことがなく、その機会さえありません。ここは悪魔の最後のとりでなのでしょうか?
――ジョン・アレン・チャウ(宣教師)

グローバル化した社会において、地球にはもはや未踏破の場所は残っていないと思うかもしれない。だが実際は、“非接触”を維持している先住民グループが少なくとも100は存在すると考えられている。

現代世界との交流を望んでいない人々や、その必要性を感じない人々と、調和――あるいは少なくとも共存――していくにはどうしたらいいのだろうか。そもそも、私たちは彼らとの交流に取り組むべきなのだろうか。

インド洋のベンガル湾にある「北センチネル島」

北センチネル島は、公式にはインド洋のベンガル湾にあるアンダマン・ニコバル諸島の一部だが、文明の年代がまったく異なるグループを隔てる境界線を引くという難問に関するきわめて興味深い一例になっている。

行政レベルで見ると、近代国民国家の国境内にあるにもかかわらず、北センチネル島はインド政府やその他の外部関係者の干渉から保護されており、島民ではない人間が、この島の5キロメートル以内に立ち入ることを禁止されている。

島民が、現代社会のほかのどの人間とも言語を共有しておらず、本格的な接触を求めていないことを踏まえると、彼らがこの法的措置に気づいていないか、無関心であると考えるのが妥当だろう。そこには、世界とのかかわり方がまったく異なる者同士のあいだに境界線を引くことの皮肉が表れている。

といっても、そういった境界が取るに足りないものであるというわけではない。ジョン・アレン・チャウというキリスト教の宣教師が、2018年11月に苦難の末に知ったように、厳重に守られているこの境界は間違いなく双方に認識されているのである。