標準治療を妨げるほどの民間療法信者

そして最大の迷惑患者といえば、民間療法に頼り、標準治療を受けてくれない患者さんです。これはクリニックではあまりないことですが、私が大学病院で働いていたときにはときどきありました。

私は民間療法をやってはいけないという立場ではありません。構いません。ただし、標準治療の妨げにならない範囲においてです。

患者さんが民間療法に走る理由は二つあると思います。一つは、治療経過が芳しくなくて、それこそ「藁をもつかむ」思いで民間療法に手を出すパターン。もう一つは、現代医療・西洋医療に漠たる不信感があって、民間療法が現代医学に取って代わるような効果をあげるのではないかという期待を持ってしまうというパターン。

民間療法が効くと主張する人は、必ずと言っていいほど陰謀論を持ち出します。「民間療法が効くと分かったら製薬会社が困る。だから効かないことにしている」と。

だったら、製薬会社の社長さんは、がんになったら抗がん剤治療など受けずに、民間療法に走るはずです。そんな人、いますか?

民間療法に効果があれば、医者は学会で発表しますよね。そして超一流の医学雑誌に論文が掲載されて、その人のキャリアアップになります。治療の大転換が起きれば、ノーベル賞を受賞できるかもしれません。でも、誰もそんな発表をしません。エビデンス(科学的根拠)がないからです。

現代医学・科学の粋を集めた診断技術でがんの診断をつけておきながら、そこから先は民間療法に頼るというのは、私にはタチの悪い喜劇にしか見えません。

「小児がん」のわが子を「光」で治そうとする親

小児がんの中に神経芽腫という病気があります。副腎などから発生する小児がんで、通常、病気が見つかるときには、全身の骨にがんが転移しています。私が医者になった頃、骨に転移していると100%患者さんは亡くなっていました。その後、抗がん剤を複数組み合わせることで、30~40%くらいの患者さんが治るようになりました。現在では、造血幹細胞移植(骨髄移植のようなもの)や抗体療法を併用することで、40~50%くらいの治癒率になっています。

いずれにしても大変に予後が悪く、治癒に導くためには1年以上に及ぶ大量の抗がん剤治療が必要です。その治療はとても過酷で、医療サイドも患者家族も必死になって闘わなければならない難病です。

私は、この神経芽腫の子どもの治療をしようとしたとき、拒否された経験があります。親は「自宅に連れて帰る」と言うのです。理由を尋ねたら、信頼している民間の先生(?)が、光を当てて治してくれるそうです。「光って手をかざすんですか」と重ねて聞くと、そうではなく、器械から光線が出て何でも治るとのことでした。