「不戦敗」なら党として致命傷を負っていた

国政であれ地方選挙であれ、時の権力が示す方向性に対し「その道で良いのか」と選択肢を示すのが野党第1党の役割だ。地方の首長選でも可能な限り与党への相乗りを避け、対立候補という選択肢を示すべきだ。筆者は折に触れてそう繰り返してきた。

そんな筆者でさえ都知事選はさすがにハードルが高いと考えていたが、蓮舫氏の出馬によって、都知事選は鳩山氏以来ほぼ四半世紀ぶりに「国政の野党第1党が前に出て主体的に戦う」形の選挙が実現した(内実が伴っていたかどうかの議論は、ここでは置く)。

都庁
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蓮舫氏の街頭演説には連日党の有力議員が応援のマイクを握り、蓮舫氏のいない場所で幹部が辻立ちやビラまきをする姿もあった。東京以外の立憲の国会議員や地方議員も、大挙して蓮舫氏の応援に駆けつけた。

あのまま「小池vs石丸」があおられるなかで党が埋没し、事実上「不戦敗」のような選挙を戦っていたら、それは敗戦以上に党へのダメージになったかもしれない。都知事選を戦えなかった維新が今、党として大きなダメージを受けているように。蓮舫氏の「出馬そのもの」を筆者が高く評価する理由はここにある。

石丸氏よりも小池氏の選挙を実践すべき

問題は党組織全体の「決定的な準備不足」のほうだ。とにかく数十年というレベルで、野党勢力は都知事選に出遅れている。この状況をこれ以上放置できない。立憲は東京に、もっと確固とした「地力」を築かなければいけない。

蓮舫氏が石丸氏を下回る3位に沈んだことについて、一部のメディアは蓮舫氏の「2位じゃだめなんですか」という過去の発言を使ってあげつらっている。建設的な敗因分析につながらず、ただ敗者をやゆするだけの言論は、恥ずべきことだと心から思う。

一方で「2位を取れなかった」ことは深刻に考える必要がある。現職への選択肢として「1対1」の構図を作れなかったことを意味するからだ。野党第1党が3位に沈むのは、明らかに大きな敗北だ。

だから立憲が、得票で蓮舫氏を上回った石丸氏の選挙戦に気を取られるのは理解する。政党どころか政治そのものにも関心を持てずにいる層に、既存の方法で支持を求めるのは無理だ。どんなツールを使ってどんな言葉を伝えるかを真剣に考えるのは、政党として当然だろう。蓮舫氏の選挙が「ひとり街宣」などのムーブメントを起こし、政治に積極的に向き合うことの少なかった若者や女性の心を揺らしたことも積極的にとらえ、党への理解を深めることに生かしてほしい。

そもそも、落選後に蓮舫氏が受けている多数の誹謗中傷に対し、党が反論したり蓮舫氏をケアする姿勢を見せないのはいただけない。蓮舫氏自身はもちろん、今後政治の世界を志す女性を萎縮させるような動きに対しては、明確にNOの意思表示をすべきだ。女性やミックスルーツを持つ人、また「頑張ったのに報われなかった人」が過剰に責め立てられる社会が、本当に党が「目指す社会像」なのかどうか、胸に手を当てて考えてほしい。

そして立憲がまず実践すべきは、むしろ勝った小池氏の選挙のほうではないか。基盤となる党の支部を活性化させ、地方議員を増やしていくなど、地上戦で張り合える「地力」をつける、という基本に立ち返るべきだ。東京が無党派層の多い地域なのは変えようがないが、それでも立憲が目指すべきは「無党派層に媚びて党の姿や立ち位置を変える」ことではなく「自らの立ち位置を訴えて無党派層を振り向かせ『党の支持層に変える』」ことであるはずだ。

「無党派層対策」という言葉に政党が過剰に振り回されるのは、そろそろ見直したほうがいい。