東京新聞の森田記者は傍聴に並ぶ人たちに違和感を抱いた
裁判所内の異様な行列に遭遇した團さん、森田さんは、実は横浜地裁の記者クラブで机が隣同士という顔見知り。しかし、「傍聴ブロック」の問題に行きついたのは、別々のアプローチからだった。
「裁判の開廷10分前ぐらいに到着したら行列ができていて『有名事件でもないはずなのにどうしたんだろう』と疑問に思い、出てきた傍聴人の3人ぐらいに声をかけてみました。通常、興味があって傍聴に来ている人なら、積極的に話してくれる方が多いのに、取材を嫌がっている感じで……。それに、スーツ姿の人が多く、私服姿の傍聴マニアという感じでもない。同じ事件の次の公判では30分ぐらい前に法廷に向かったら、すでに行列ができていて驚きました。最初は問題が起きた学校のPTAの方かとも思いましたが、ちょっと雰囲気が違うなという違和感がありました」(森田さん)
通常は県警など裁判以外も広範囲の取材対象を追いかけている森田さんは、2回の公判により、記者としての経験に基づく「直感」で、傍聴に来ていた人を尾行した。
共同通信が教育委員会に質問状を送ると、先手を打って会見が
一方、共同通信の横浜支局記者として司法取材を担当する團さんは、これまで匿名で審議される事件の公判で気になるものがあると、傍聴して内容を確認してきたと言う。
「傍聴を重ね、3つの事件で傍聴席の満員を確認。いずれも教員による児童・生徒への性犯罪事件だったことから、組織的な動員や、横浜市教育委員会の関与を疑うに至りました。そこから、事件の内容を含めてデスクに相談し、支局内で情報共有し、次の公判期日にのぞみました。市教育委員会側に事実を問うためには、取材を尽くす必要があると考えました」(團さん)
横浜市教育委員会が会見を行ったのは、共同通信がこうして傍聴人の尾行などの取材を進めて送った質問状がきっかけだった。17日にその回答を受け取った共同通信が、原稿を出すべく準備していた21日昼前、市教委から同日午後に会見すると告げられたという。
そこで、共同通信では、急ぎの独自ダネとして会見直前にスクープを出した。一方、東京新聞は会見後、森田さんの情報開示請求を武器に先述の記事を出すに至る。
「性犯罪公判、多数の職員動員 第三者傍聴防ぐ目的、横浜市教委」(共同通信、5月21日)