ガス代がかかる上に、出店すれば苦情が来る

ただ、スープの仕込みには時間がかかります。新しい店を出そうとして、一からスープを作り始めると3日はかかる。その後、営業時間に入ってからもずっと炊き続けなくてはならない。

水道光熱費、特にガス代がかかるのが熟成追い炊き製法のにおいの強いラーメンです。

例えば、泡系の本格スープを作るにはガスを1カ月で3000立米りゅうべいから4000立米は使います。家庭が1カ月使う量の100倍ですよ。

今、ガス代はすごく上がっていて、創業した2004年当時の3倍くらいです。特にコロナの後、ガス代が上がりました。麺を茹でるほか、チャーシューを作るにもガスを使いますし、材料費も上がってます。これをすべてラーメンの値段に転嫁することはできません。値段を上げたら、お客さんは他店に行ってしまう。

もうひとつ大きな問題があります。においの強いラーメン店を出すこと自体が難しくなっているんです。まず、近所の住民から必ず苦情が出ます。福岡の不動産屋からは店舗用の物件を斡旋してもらえなかったりする。

「あ、一幸舎さんなの。悪いけど、他で物件を当たってくれ」って。

昔からやっている店は別として、においの強いラーメン店は住宅地、商業地ではもう無理でしょう。また、駅ビル、ショッピングモールのようなところもなかなか入れてくれません。クレームが出るからです。

豚骨ラーメン発祥の地である福岡県内ですら、豚骨ラーメンの新規出店は難しくなっているという
撮影=プレジデントオンライン編集部
豚骨ラーメン発祥の地である福岡県内ですら、豚骨ラーメンの新規出店は難しくなっているという

博多一幸舎の店舗を増やすことはほぼない

博多一幸舎の総本店は今でも創業当時と同じラーメンを提供していますけれど、排気を10メートルくらい伸ばして屋上からにおいを出してます。だから許されているんですけど、それでもたまにクレームをもらいます。

そういう状況なので、博多では「非とんこつ」と言われる醤油ラーメン、塩ラーメン、それから「次郎系」と呼ばれる野菜を大盛りにしたラーメン店の出店が多いです。新店の7割は「非とんこつ」ですね。

さらに今は、ラーメン店に限らず飲食業界全体で人手不足が深刻です。昔は中学を出てすぐとか、高校をやめて入ってきた従業員が多かった。でも、今はそもそもラーメン店に入ってくる方が減りました。アルバイト、パートさんは時給を上げても来ないんです。

「とんこつラーメンのにおいが嫌い」
「一晩中、とんこつスープを炊くのは嫌」

そういう感じです。人手不足もあって、においの強いとんこつラーメンを出せないわけです。今、飲食系でアルバイト、パートさんが集まるのはパンとスイーツくらいじゃないですか。

うちでも、博多一幸舎の店舗はもう増やすことはありません。これからは「マイルドとんこつ」とか「町とんこつ」と呼ばれている「幸ちゃんラーメン」のブランドで全国展開していこうと思っています。

調理場に立つ吉村社長。アルバイトの中には「とんこつの臭いがついて仕事終わりにプライベートで出かけられない」と敬遠する人もいるのだとか
写真提供=ウインズジャパンホールディングス
調理場に立つ吉村社長。アルバイトの中には「とんこつの臭いがついて仕事終わりにプライベートで出かけられない」と敬遠する人もいるのだとか