「女性でいたくない」精神的に不安定な思春期の少女たち

アメリカでは、思春期になってから性別違和を訴えるようになった少女たちが、SNSを媒介にして爆発的に増加しており、シュライアーによれば、それは「男性になりたい」というよりも、「女性でいたくない」と考える、精神的に不安定な思春期の少女たちにすぎないというのだ。

となれば、少女たちの「性自認」をあくまでも肯定し、思春期ブロッカー(第二次性徴を抑制する薬剤)、異性ホルモン(テストステロン)、胸の除去手術、場合によっては男性器の形成という性別適合手術へと進んでいく「ジェンダー肯定医療」の、妥当性が揺らいでくる。

従来は、性別違和を訴えてトランスを希望する少女については、こうしたジェンダー肯定医療というプロセスにつなげなければ、少女たちは自殺してしまうと脅されたものだが、シュライアーの本を読めばそうとはいえないことがわかる。

スマートフォン中毒のティーンエイジャーたち
写真=iStock.com/ViewApart
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「ジェンダー肯定医療」の問題点を指摘する報告

この本が発売延期となっている間に、2つの事件があった。ひとつはWPATHファイルの流出であり、もうひとつはキャス博士の報告書の公開である。

WPATH(世界トランスジェンダーヘルス専門家協会)は、「ジェンダー肯定医療」を推し進めてきた団体だが、実際は医療関係者だけではなく、多くのトランスジェンダー活動家を含んでいた。

流出したWPATHファイルは、思春期ブロッカーによって、将来的な不妊や、永遠に性的なオーガズムを感じなくなることなどの重大な症状が引き起こされる可能性があり、またジェンダー肯定医療の有用性には疑問があることを示唆していた。WPATHはそのことを認識していたにもかかわらず、黙っていたのだ。それどころか、子どもたちがこれらの情報を理解しておらず、インフォームドコンセント(医師からの情報提供や説明が十分に行われ、患者から同意を得ること)が行われていなかったこともわかった。さらに、トランスを希望する子どもの中には、多くの精神疾患を抱えた子どもたちがいることを知っていながら、こうした「医療」を進めてきたのである。

またイギリスでは、トランスジェンダーになったことを後悔し、「ジェンダー肯定医療」を受けるのをやめた子どもたち(「脱トランス」した子どもたち)が、じゅうぶんな情報提供が行われないまま、それこそ本のタイトルそのままに「回復不可能な損傷」を負ったことを、裁判所に訴え始めた。

イギリスの公的医療保険サービス、NHS(国民保健サービス)は、小児科医のキャス博士に対し、18歳未満の子どもに施されるジェンダー肯定医療についての調査を依頼した。今年4月に公表されたその報告書には、ジェンダー肯定医療の有効性にはエビデンスがないこと、思春期ブロッカーやホルモン治療が重大な副作用をもたらす可能性があること、さらに調査が必要であることなどが書かれている。