政権中枢を文系が占める、憂慮すべき事態
私には、現在の東京大学法学部が、まさにその前身である徳川幕府の昌平坂学問所に見えてなりません。幕末から明治維新にかけて、欧米列強に対抗するために、蘭学や近代的な工業技術、経済学、軍事学などを学ぶ必要があったのに、幕閣トップの老中、若年寄などの家柄の子弟は、神君家康公以来の伝統ある朱子学を学び続けていました。
職務遂行に必要な能力を備えていないリーダーが国の舵取りをするのはあまりにも危険なので、ペリー来航以降、ようやく小栗上野介忠順、勝海舟など、譜代大名ではなく旗本の家柄の武士を重要ポストに登用することになりますが、極めて例外的でした。
同様に、現在の政権の中枢が、東大法学部などの文系学部出身者に占められている事態が憂慮されます。ITやAIなどの情報通信技術、データサイエンス、科学技術の素養が求められる時代に、閣僚や官僚の資質の見直し、人材登用の在り方の多様化が急務です。
さらに言えば、最終学歴と幸福(=ウェル・ビーイング)の相関関係も弱くなっているようです。
「子どもを高学歴に」と親を煽る教育産業
神戸大学の西村和雄特命教授と同志社大学経済学研究科の八木匡教授が、全国の20歳以上70歳未満の男女を対象に行った「生活環境と幸福感に関するインターネット調査」(2018年2月8日~2月13日)は、所得・学歴・自己決定・健康・人間関係の5つについて幸福感と相関するかについて分析を行いました。
この調査によると、幸福感に与える影響力が最も大きかったのは、学歴ではなく、健康でした。その後、人間関係、自己決定が続き、所得や学歴はそれらを下回りました。
学歴が幸福感に与える影響に至っては、有意差が出ませんでした。
さらに、最終学歴が高いことよりも、自分の意志で人生の進路を決定したかどうかが幸福度に直結するという調査結果もあります。
※「生活と職場での満足感と行動変容能力――日本における実証研究」(独立行政法人経済産業研究所 西村和雄・八木匡)
欧米の調査でも、同様の結果が出ています。学歴が高かったからと言って、必ずしも幸せになれるとは限らないという、ある意味、当然の結論です。しかし、学歴が低いと不安だという気持ちを手放せない人が多いのも現状で、かくして「教育産業」は、子を持つ親の不安を煽るメッセージを流し続けているのです。
本書の目的は、「勉強しなければ」という不安感ではなく、「学ぶことの楽しさ、素晴らしさ」を社会に広めていくところにあります。
人生100年学習社会に必要なインフラは整ってきています。あと必要なのは、私たち自身が、古い教育観から脱却して新しい「学習観」に立つことなのです。