「任意後見契約」を結ぶと安心だが…
「任意後見契約」というもので、将来、認知症などになったときに後見が開始します。判断能力はあるけれど、病気などで日常的なお金の出し入れや財産管理などが不自由になることもあるでしょう。そのような場合に備えて、「財産管理等委任契約」を任意後見契約とセットで契約しておくとさらに安心です。
いずれも契約時には公正証書作成料(1.5~2万円程度)がかかるほか、契約書作成などを専門家に依頼すると、数万~数十万円というまとまった費用がかかることも二の足を踏む原因の一つかもしれません。たとえ契約したとしても、認知症になることなく人生を終えたなら、契約は無駄になってしまいますので、なかなか悩ましい問題です。
今の高齢者は子どもがいる人が多く、「そんなことにお金をかけなくても、子どもたちが何とかしてくれる」と考えてしまうようです。しかし、準備をしないまま親が認知症になると、口座から生活費をおろすこともできず、法定後見を利用せざるをえなくなり、会ったこともない専門家が後見人に選任されることもあります。
民間保険も無駄になる可能性がある
結局、不測の事態に備えて、民間の医療保険や介護保険に加入し、たとえ掛け捨てになったとしても、数十年にわたって保険料を払い続ける、という選択肢が有力に思えます。しかし、認知症になってしまえば、保険金や給付金の受取りや契約内容の変更などの手続きもできなくなります。
指定代理請求人制度や契約者代理制度などもありますが、代理人になれるのは保険会社が定める一定の親族などに限られますし、可能な手続きにも限界があります。せっかく加入した保険をしっかり活用するにも、任意後見契約を結び、保険に関する事務を委任しておく必要がありそうです。
認知症にならなければ任意後見契約は無駄になるといいましたが、介護にならず入院もあまりしないまま亡くなると、無駄になるのは保険も同じ。任意後見契約も自分の暮らしを守る保険と考えてはどうでしょうか。
しかし、任意後見の利用はまだまだ普及に至っていません。2023年の成年後見制度全体(※)の申立件数は4万951件、そのうち任意後見監督人の申立件数は871件にすぎません。成年後見制度自体の硬直性を指摘する声もあり、現在、法改正に向けて議論が進んでいる最中です。将来的にもっと利用しやすくなる可能性があるので、動向に注目です。
※成年後見制度には法定後見の「後見」「保佐」「補助」と任意後見がある