キラキラしている大人にやっと会えた
宮城県多賀城高校1年生の三品万麻紗さん、将来の志望は映像関係のプロデューサー。「今、河瀬直美さんに興味津々です」と語る。三品さんは、どこで河瀬直美を知ったのか。
「『ビヨンドトゥモロー』に参加したときに紹介されました」
ビヨンドトゥモローは、ダボス会議参加者を中心とする日本の若手経済人が設立した「一般財団法人教育支援グローバル基金」が行っている、奨学金や教育プログラム提供などの被災地教育支援事業のことだ。昨年10月には東京で1泊2日のグループディスカッションを行う「東北未来リーダーズサミット2012」を開催、三品さん以外にも何人かの「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」参加者が、これに参加している。「TOMODACHI~」参加者の Facebook グループ上では、こうした機会の情報共有が盛んに行われている。
「ビヨンド~」には、教育支援グローバル基金の理事である若手経済人たちも参加していた。その多くが1960年代後半~70年代前半の生まれ——懐かしいことばを使えば「新人類」から「76世代」の間だ。インターネットの普及期と、1995年の阪神淡路大震災——この国の「ボランティア元年」に大学生もしくは20代で出合った年代が、今、被災地の高校生たちを支援している。
■BEYOND Tomorrow| 一般財団法人 教育支援グローバル基金
http://beyond-tomorrow.org/
「河瀬直美さんのことは、藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク副代表)さんと近藤正晃ジェームス(Twitter Japan 代表)さんから紹介されました。紹介されるまでは、映画祭のことしか知らなくって、宮城に戻ってDVDを借りに行きました。あまり詳しく調べていないのですが、ほとんど新人の俳優陣を使っているにもかかわらず、さまざまなところで賞をもらっていて、合成とか現代の技術がむき出していない、温かみのある、ほんとうに美しい作品をつくっている方です。わたしが目指す、見終わったあとに何かを考えさせられる作品をつくり上げているところに興味津々なんです」
三品さん、プロデューサーになるためには、何を手に入れる必要がありますか?
「『TOMODACHI~』に参加する前は、いろんな作品を観るっていうことと、就職するために4年制大学を卒業しなきゃいけないってことは、自分の中で決まっていたんですけど、『TOMODACHI~』や『ビヨンド~』に参加したあとは、それよりも、実行する気力とか、人の和とか、いろんな人の話を聞くことが大事だと思ってて。大人の人の話聞くの、大好きになっちゃって、いろんな人に聞きに行くんです。でも、同級生とかと話すと、自分の意見を通したいっていうのがまだ抜けなくて。そこは直さなきゃなって思ってます」
三品さんは「TOMODACHI~」では、ピクサーで働く日本人から話を聞いたという。
「『ビヨンド~』に来られた大人の方も、わたしたち学生の話にもちゃんと耳を傾けてくれたり、いろんな知り合いの方とか紹介してくれて。近藤さんにも『夢、何なの?』って言われて、わたしが答えたら、すぐに『この人、どう?』っていっぱい紹介してくれて。2012年は、キラキラしている大人にやっと会えた。1人ひとりの声を聞き、向き合ってくださる大人の方が、かなり不足しているんです。それまでこっちが、そういう目で大人を見ていなかったということかもしれないのですが……」
さて、三品さん、高校を卒業したあとはどうしますか。
「こういう経験して、迷い始めてます。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる(笑)。留学して、やっぱり英語を鍛えたほうがいいのかなとか、宮城県の大学じゃ、やっぱり駄目なのかなとか」
ここはメールで「その後」を確認しよう。
「わたしはいつも目標がないとダラダラしちゃうので、今、目指しているところは? と訊かれたときには、秋田にある国際教養大学と言っています。1年留学必須、留学生との寮生活、図書館などの設備も良くて、授業もすべて英語(しかも、さまざまな国の先生方)というところに惹かれました。この大学に行けば、また自分の視野を広めることができる、新しいことができそう、と考えました。ただ、今の実力では本当に難しい。今、意識して毎日英語の勉強をしていますが、なかなか成果が出てこなくて、正直まだまだ迷っています」
もうひとつ「その後」の話を書く。三品さんは「実行する気力、人の和」と語った。実行は為された。昨年末、三品さんは自分が出合った被災地の声を集めた2分49秒の映像をつくった。そこには60人を超える人たちが協力しているという。その映像は1月2日から、YouTube 上で公開されている。
■from311 声
http://www.youtube.com/watch?v=DXeUfaOrrKg&feature=youtu.be
次に登場するのは、三品さんと同じ多賀城高に通う——幼稚園のころから『家庭の医学』を読んでいたという高校生だ。