安田 近著の『中国不動産バブル』(文春新書)でも、その点を丁寧に振り返って解説されていますね。そもそも中国の不動産バブルはどのようにして生じたのでしょうか。

 バブルの定義は経済学者の間でも定まっていません。一般に、マンション価格は会社員の年収の6年分以内が正常値とされます。それを上回ると、30年のローンを返済できない可能性が高まる。

日本のバブル期、首都圏の不動産価格は最大で年収の約18倍まで跳ね上がりました。ところが中国の場合、2023年の時点で北京・上海・深圳の三大都市の不動産価格は年収の36〜50倍に達した。これでは、たとえ購入しても一般人が返済するのはほぼ不可能。不動産バブルと言っていい状態です。

党幹部を接待する「喜び組」

高口 高騰の一因は、中国の土地制度や地方行政システムにあるというのが柯さんの見立てです。日本ではあまり知られていませんが、中国はすべての土地が国有で、個人は土地を所有できません。

 そこで中国共産党は1990年代、日本の定期借地権制度を参考に、国有である土地の所有権と、実際に使う人の使用権(借地権)を分離することを思いつきました。

結果、地方政府が定期借地権を払い下げ、都市再開発と不動産開発のブームが始まります。開発が進むと周辺の商業施設も整備され、地方政府も巨額の財源をもとに地下鉄などのインフラを整備したわけです。

高口 関連産業も含めると、中国のGDPの約3割は不動産絡み。共産党政権は長年、市場の過熱を問題視してきましたが、GDP成長率との兼ね合いからブレーキを掛けきれなかった。結果、つい最近まで「中国の不動産価格は永遠に上がる」と考える中国人も多くいました。

 その通りです。加えて各地の地方政府は、融資平台(ロンヅーピンタイ、融資プラットフォーム)という第三セクターのような会社を作って、国有銀行から巨額の融資を受けた。融資平台が社債発行で得た資金は、やはり地方政府の財源となり、さらには不動産開発への再投資に回されました。

一連の不動産開発と資金調達の過程では、不動産デベロッパーと地方政府の深刻な癒着が生まれます。賄賂と接待です。今回デフォルトした恒大集団の創業者の許家印(シュイジャーイン)は、土地入札のために党幹部を接待する専用のプライベートクラブを作り、「喜び組」のような歌舞団まで準備していたといいます。

高口 腐敗で摘発された地方政府の幹部が、100以上もの不動産を所有する例も多い。これらもデベロッパーからの賄賂ですね。

 共産党体制の中国では、行政を監視するガバナンスが機能していません。習近平政権がどれだけ熱心に腐敗摘発をやっても、腐敗の本質的な構造が体制に由来している以上、対症療法にとどまります。

いっぽう、デベロッパーが賄賂に使った経費のツケは、マンションの購入者たちが払わされる。ひとつは手抜きによる工事費の切り詰め。もうひとつは価格への転嫁です。こうして、中国の不動産価格は本来の価値よりも大幅な高値となり、上がり続けてしまいました。