「人間としてのスペックを不動産物件で測られる」“腐敗”と“面子”で読み解く中国不動産バブルの深い闇(柯 隆,高口 康太,安田 峰俊/文藝春秋 2024年6月号)

「明らかに不動産バブルは崩壊しています」と、中国経済の現状を分析するのはエコノミストの柯隆氏だ。中国の大都市では不動産価格が年収の約36〜50倍と一時期に言われていたが、大手デベロッパーが負債総額が兆円単位の破綻にいたったことを契機に値下がりが続いている。柯氏によると、不動産バブルの構造が日本と中国では異なるという。

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 中国ではコロナ禍後に消費が冷え込むなか、これまで経済発展を支えてきた主要大都市の不動産価格が大きく下落した。不動産バブルの崩壊は金融危機に飛び火し、いずれ共産党の統治体制をも揺るがしかねない経済恐慌に突入していく――。

 そう論じるのは、エコノミストの柯隆(かりゅう)氏(東京財団政策研究所主席研究員)だ。中国経済研究の第一人者である柯氏は、進行中の中国経済危機に警鐘を鳴らし、日本側も備える必要性を呼びかける。

 中国ジャーナリストの高口康太氏、ルポライターの安田峰俊氏が、柯氏の素顔に迫りつつ、「恐慌中国」の実情を語り合った。

柯隆氏 ©文藝春秋

安田 柯さんは長年、地に足のついた中国経済分析で知られています。いっぽう近年は、文化大革命時代の硬直した体制への拒否感も公にされていますね。現在の習近平体制に対する厳しい評価も、そうした思いが背景にありそうですが、生い立ちとも関係があるのでしょうか。

 そうですね。私は1963年に南京で生まれて、実は文革末期に「紅衛兵」になった最後の世代なんです。さいわい、直接的な暴力行為には関与せずに済みましたが、眼の前で吊るし上げられる人を見たことがある。親族が下放(かほう)され、涙ながらに別れる姿も見ています。なにより当時は書籍が読めない時代でしたから、私はそれが辛かったですよ。

日本の「電気」に驚いた

高口 文革後、留学生として1988年に日本にいらっしゃいます。

 24歳のとき、名古屋のロータリークラブの方に身元引受人になっていただいて、愛知大学と名古屋大学大学院で金融を学びました。

実は、来日後の最大の驚きは「電気」なんです。ロータリークラブのみなさんから飲みに誘われた帰り、名古屋の街には深夜1時でも煌々と明かりがついていた。当時、故郷の南京は電力不足で、夜8時を過ぎれば真っ暗でしたから、異世界に来たような気持ちでしたよ。バブル真っ盛りの時期のことです。街を歩いていたら、見知らぬサラリーマンから、「(留学生だから)苦労してるだろう」と1万円札を渡されたりと、不思議なことが多い時代でしたね。

安田 36年におよぶ日本生活の原体験がバブルだったのですね。

 しかも、最初の就職先は日本長期信用銀行の総合研究所でした。「優良企業に入ったから、もう人生の心配は要らない」と日本人の知人たちは喜んでくれたのですが、長銀は4年半後の1998年に破綻してしまいました。当時、本店の先輩だった方が何人も自殺しています。

高口 日本のバブルの負の側面を目の当たりにしたわけですね。昨年、中国大手不動産デベロッパーの恒大集団(ハンダージィトゥアン)の負債総額が2兆3882億元(約48兆円)にのぼったと報じられました。同業大手の碧桂園(ビーグイユエン)もデフォルトしていますが、長銀や山一證券の破綻を想起した日本人も多かったようです。

 私は日本のバブルの崩壊過程を内部から見た立場で、現在は中国経済の専門家。そんな自分が、中国の不動産バブルの加速とその破綻の過程を、あらためて冷静に振り返る必要があると感じています。