キャリア官僚の「天下り」よりも露骨
「天下り」といえば霞が関のキャリア官僚たちを想定しがちだが、地方自治体の幹部職員たちの例も数多くある。自治体幹部の天下りは、住民の関心が薄く、監視役である議会のチェックが十分機能しておらず、官僚の天下りよりも多くの問題を抱えているとの声もある。
東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)に注目が集まる東京都庁もその例外ではない。
都知事選は自治体選挙と比べても注目度は高いが、従来から政策よりも知名度がモノを言い、芸能人などの著名人が知事のポストを得る傾向がある。政策論争の気配があまり感じられないのは残念だが、天下りの問題は、都知事選の争点にするべき重大なテーマだと考えている。
筆者は天下りについて新知事がどう考えるか注目している。なぜなら都民の気づかないところで天下り団体やポストが数多く用意され、都民の生活に影響を与えている恐れがあるからだ。
例をあげよう。コロナ禍が明け、円安も相まって東京でも外国人観光客があふれている。東京の観光ツアーとして有名なのが昔から「はとバス」だ。利用したことがある人も多いだろう。
意外に思う人も多いと思うが、株式会社はとバスも都庁幹部の天下り先なのだ。現在の武市玲子社長は元東京都交通局長だ。武市氏の社長就任時、はとバスでは5代連続で都幹部が社長になったことが報じられ、問題視された。はとバスは東京都が株の38%ほどを所有している東京都の「事業協力団体」(後述)なのだ。
東京メトロの幹部ポストは副知事経験者の指定席
さらに身近なところにも天下りポストが存在している。都内の地下鉄を運営する東京メトロだ。
昨年5月、同社の本田勝会長が退任し、この問題がクローズアップされた。本田氏は国交省事務方トップの事務次官経験者で、損保会社顧問などを経て2019年6月から東京メトロの会長を務めていた。本田氏は空港ビルの運営などを展開する東証プライム上場の「空港施設株式会社」の首脳に対して、同省OBの当時の副社長を社長にするよう求め、実現すれば、「国交省としてあらゆる形でサポートする」と説明していたことが発覚、大問題となった。
筆者が驚いたのはその後任人事だ。当時副会長だった川澄俊文氏が会長に昇格した。同氏は都の総務部長、福祉保健局長、政策企画局長などを歴任し、2016年から2年間、東京都副知事を務めた人物だ。
不祥事を起こした国交省の天下り会長の後任が、都庁の天下りという人事に開いた口が塞がらなかった。